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なぞなど第七問までのお話 [イェルクッシェ]

「第七問までのお話」

 ジルコーニヤを加えた一行は気味の良くない木々に挟まれながら薄暗い道を行きました。

 イェルクッシェはなんだか突拍子もない節回しで即興のお歌を拾った小枝を振り回しながら歌っていましたが、ポイトコナは再びカシムのポケットから辺りを見回していました。

 ノドはカシムの頭の上で危険が迫ってはいないかと辺りに注意深く目を光らせていましたが、でぴぴは魔女が老婆だと聞いても可愛いお弟子さんがいるものと思い、お目々をキラキラさせてイェルクッシェとは別のまともな鼻歌を歌っていました。

 ジルコーニアはいちばん後から所々草の茎を折って行きました。
道は一本なので迷う事はないのですが、そう言う事をしてみたかったのです。

 そんな中カシムは緊張を押し隠したような表情で黙って歩きました。

 時折イェルクッシェが「あれなぁに?」と振り返るのですが、もっぱらノドが相手をしていました。
それほど長い道のりではなかったはずでしたが皆には長く感じられました。

 そろそろ疲れたなと思う頃唐突に開けた場所に出ました。
空はもう赤紫色になっており、奇妙な小屋の向こうには小さな三日月が白く傾いていました。
 赤紫の空と、黒々した森をバックに鶏の足が生えたその小屋はどういうわけか薄闇の中浮かび上がってはっきり見えました。

 さすがのイェルクッシェも歌をやめ、カシムの側に付きました。
でぴぴまでもが背筋を縮めて同じ様に寄り添いました。

 それでもカシムは足を止めずその小屋に向かって歩いてゆきました。そして躊躇する事無く扉をノックしました。
ポイトコナはビクッとなってあわててポケットの底に潜った後目だけ覗かせました。

 「おやおや?どなたかねぇ?。」
まるで古いドアが軋んだような声が微かにしました。

 「失礼します。」
カシムは凛とした声を出しました。そして一度息を整えるとドアノブを引きました。

 小屋の中は暖かい光に満たされていました。

 藤色のクロスのかかった丸太で作ったテーブをそれに不釣合いなアールデコ調の椅子がいくつか取り囲んでおり、壁には不思議なだまし絵並んでいました。

 イェルクッシェはたちまちそちらに興味を引かれて正面に座った老婆の事など目にも入らずにそちらに跳んでゆきました。

 「わぁ!おもしろいなぁこれ!すごいなぁ!」

 まるで石のように年を取って見える老婆はショールの奥でくくくくと笑いました。

 「坊やはそれが気に入ったかい。」

 「うん!僕、不思議なものが大好きなんだ!」
イェルクッシェは振り向きもせず騙し絵を見比べながら言いました。

 イェルクッシェが面白そうなものを見つけたようなのでポイトコナも出てこようとしましたが石で出来ているのではないかと思うような老女が怖くてカシムのポケットから出る事はしませんでした。

 でぴぴはやや震えながら老女に挨拶をしました。
老女は引きつった様な顔をして挨拶を返しました。それをでぴぴは笑顔になったのだと解釈しました。

 ノドはリヴリーの脅威になりそうな魔女の下僕、黒猫がいやしないかとテーブルの下や部屋の隅などに目を走らせていました。

 ジルコーニアは入ってきてからお鼻をひくひくさせながらここからは見えないテーブルの上をじっと見ていました。

 「ミズヤガー」
カシムが言うと老女はヤガーで良いと言いました。

 「ヤガー、私はカシムと言う者です。貴方のお知恵を借りに来ました。もちろんお礼は用意して来ております。」カシムが背負っていた背嚢を下ろした時ヤガーは手をふって言いました。

 「そんな事は後で良いだろう?子供たちはそんなつまらない話よかテーブルの上のほうが気になるだろうねぇ?」
その言葉にジルコーニアはこくこくと頷きました。

 ポイトコナがポケットからテーブルを覗くとそこには湯気を立てた肉の入ったスープや柔らかそうなパン、それにミートパイやマフィンケーキ、チェリーのクッキーもあれば紅茶のポットもありました。

 それを見てポイトコナは喉とお腹を同時に鳴らしました。何しろ山に入ってからお食事どころかろくに休憩もしていなかったのですから。

 ヤガーは耳ざとく聞きつけて引きつったように笑うと「お上がり坊や達。」と古戸が軋むような声で言いました。

 カシムがリヴリーを両手に乗せてテーブルに運んでやると彼らは目の前に広げられた食べ物の匂いにたちまち空腹感を覚え、思い思いの食べ物の所に行きました。

 「お婆さん、頂いて宜しいの?」
でぴぴの質問にヤガーが答えるよりも早くイェルクッシェは「いただきま~す!」と手を合わせて言いました。

 ノドは猫がまだ心配でしたが辺りを見回しながら嘴でマフィンケーキを一度ついばみました。するとこれが思っていた以上に美味しくて思わず目を丸くしました。
 周りを気にしなくてはいけないと思いつつノドは何度も嘴を突っ込んでいました。

 でぴぴは礼儀正しく自前のフォークで少しずつパイを取り分けて頂きましたがイェルクッシェはつまずいて飛び込んだマフィンケーキに頭がはまってしまい逆さになったままじたばたしていました。

 ポイトコナはヤガーのお顔をちらちら見ながら静かにクッキーの側まで行くと一枚取って、一目散にカシムの手の中に戻ってかじりました。

 ジルコーニアはお皿の端によじ登るとお口をつけてスープを飲みました。

 「カシムと言ったね?あんたもお上がり。」
ヤガーは言いながら紅茶を注ぎました。

 カシムは促されるままに席に着くとティーカップを取りました。

 「こんな所だろう?一人暮らしだとね、来客が来ると嬉しいものさね。」

 カシムはその言葉に思いました。老いた物が山の中で一人暮らすのはどんな気分だろうと。

 「歓迎してくださって光栄です。」

 ヤガーはカシムの言葉にそうは見えない笑顔を作りました。
「あぁそうさね、歓迎するともさ。久し振りに妖精なんぞを食べられるんだからね。」

 「妖精ですか…」何を言っているのか理解しようとカシムが少し考えた時でした。手の中のポイトコナがおかしな動きをしていました。
 それを見ると手足を痙攣させています。驚いて他のリヴリー達も見回すと皆がそれぞれの場所でぎこちなく震えていました。

 「皆!どうしたんだ!」

 マフィンケーキの脇でうずくまっていたノドが「し、痺れます・・」と言うとでぴぴもなるべく大きく何度も頷きました。

 ジルコーニアがお皿の中に落ちて溺れそうになっていたのでカシムはあわてて拾い上げました。

 イェルクッシェはお顔が見えませんでしたが足と尻尾が引付を起こしていました。

 「ヤガー!これはどういう事です!」
するとヤガーは落ち着いたまま言いました。

 「ここはヤガーの小屋さ。」

 カシムは立ち上がりかけましたがふらりとよろけました。

 「紅茶ってのはね香りを楽しまなくちゃ。わかるかい?口をつけなくたって鼻から入って行くさね、痺れ薬がね。この森に入った時点で分かっていたよ。ここに来るのがね。だから用意をしておいたのさ。お前の肉もまだ柔らかそうじゃないか。」

 「僕たちを食べるの?!」
ポイトコナが苦しそうに言いました。

 ヤガーは顔の大きさに不釣合いな目をぎょろぎょろさせて言いました。

 「そうだねぇ。そうなるかもねぇ。」

 それを聞くとポイトコナはよろよろ立ち上がり叫びました。

 「そうはいかないよ!僕は王様を助けるんだ!かかってこい!」
そう言って音叉の様なおもちゃを取り出しました。

 「フ、フハハハハ。坊や?ふらついているじゃないか、後少しでお前達はすっかり動けなくなる。カシムはもう少しかかるかもしれないけどね。」

 「ヤガー、私は貢物も用意した、貴方の機嫌を損ねる事もしなかった。」 カシムは続けました。「だまし討ちをするとは聡明な賢者の行う事とは思えません!」

 ヤガーは値踏みする様に薄目になると口を尖らせて言いました。

 「賢者?困った時だけ賢者かい?こっちは神様じゃないんだ、必要な時だけ拝み倒されたって嬉かないよ。あたしゃね、何度知恵を貸してやっても馬鹿を繰り返すような凡夫にゃ興味なんざないね。そのうち薬が全身に回って言葉も出なくなる。肉切り包丁を下ろされたって痛くもないさ?安心おし。」

 ヤガーが残酷を貼り付けた様なな含み笑いをしました。
カシムは頷くと席に着きました。

 それを見るとヤガーは今度は何か面白そうな物でも見つけたかのような別の笑みに変わりました。

 「お前なんか!僕がやっつけて・・」
跳んで行こうとしたポイトコナを摘んで引き戻すとカシムは逃げ出せないように手に包みました。

 「何のつもりだい?」
ヤガーがわざとらしく言いました。

 カシムは背筋を伸ばしました。
「どうすれば証明出来ますか。」

 カシムの言葉にヤガーはいよいよ面白そうに笑みました。
「何を言っているのさ。」

 「私達が愚かではないと言う事を貴方は証明しろと言っています。この毒を解くのはそれをするしかないのでしょう。」

 「クククク。アンタおもしろいねぇ。その通りさ、よく察したねぇ。お前達がいくらか賢い事を証明出来たら命は助かるかも知れないねぇ、だが?そうでなかったんなら明日のスープは豪勢になるって事さ。」
ヤガーがマフィンの中のイェルクシェを引っ張り出し皿の上に乗せました。

 「おばさんありがとう。僕、なんだかびりびりででられなかったんだぁ。」
イェルクッシェはヤガーを見上げて言いました。

 「アンタはいい味を出してくれそうだねぇ」
ヤガーの言葉にポイトコナがカシムの手の中で力なく暴れました。

 「魔化魍めっ!」

 ヤガーは全く意に介さずにテーブルの上に四つカップを並べました。


2009-11-02 01:06  nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
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takehiko

ノド:ポイトコナくんはいざと言うときは勇気があるんだよ!
とっても頼りになる仲間なんだ。

やっとヤガーさんが登場だね!
わくわくわく。
僕たちびりびりになったちゃったけれど
カシムくんにはちゃあんと知恵と勇気があるから
きっと大丈夫なんだ!!

・・・・・・。

大丈夫だよね・・・?

えええっ!
これからそれが問題?
命がけのなぞなぞだね・・。
by takehiko (2009-11-03 07:18) 

xephon

イェルクッシェ:僕はお顔がお菓子の中でよくわからなかったんだぁ・・。
ポイトコナ君かっこよかったの?
そっかぁ!
さすがはトネ・・リヴレンジャーポイトコナブルーだねぇ!
by xephon (2009-11-03 23:51) 

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