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Scene”Change” [仮面ライダー]

 侵入者を許したと言う事実自体がにわかに信じがたいが、訓練ではないことは明白だ。
鳴り止まぬ警報は施設内に鳴り響きその一見小規模に思える施設は瞬く間に厳戒態勢をとっていた。

 敷地内に配備された捕獲用のトラップも放し飼いにされたドーベルマンも、そして何重にもロックされた分厚い扉さえも何らかの手段を持って通り抜け、施設の中核たる地下にのうのうと入り込んでいるあたり只者ではない。

 表向き、金持ちの家程度にしか見えないこの施設が何であるのかわかった上での襲撃と見て間違いないだろう。

 青年は耳にはめたインカムの声を聞きながら最新鋭のラボの横の廊下を走っていた。
 細身のわりに鍛え上げられた筋肉がタイトなジャケットの上からも見て取れる。

 「香川君、侵入者はレベル3に到達したわ!もうすぐ・・・」
 「ああ・・目の前にいいるよ。」

 廊下の角からゆらりと現れた者の体躯は海老が直立しようとしたごとく背むしであったが、それでもプロバスケット選手のように大柄だった。
 全身からこげ茶色の体毛を生やし、 顔の半分ほどもある複眼が二つ、それに加えビー玉ほどのものがあきれるほどたくさん額を飾っていた。
 そして何より彼が人間でないと思わせることは、その背から4本の腕とも足ともつかぬものが伸びていることであった。

 香川はインカムを放ると腰の辺りを探った。
 
 異形の者は最初、武装していないように見えたその男に興味を持たないそぶりを見せたが、その腰に巻かれたベルトを見るや否やそれとわかる殺気を放った。

 「変身。」

 「Action」
 機械音声が鳴る。

 香川がベルトに触れるとそれは激しく発光し、飛び出した輝く網が彼を包んだ。
その光が消えたとき、そこには宇宙戦争をモチーフにしたSF映画に出てきそうな細身のロボットのような香川がいた。

 ―――――――

 早川教授はまだ研究段階のそれをトランクに詰めなくてはいけなかった。
彼がその研究を始めたのはおよそ10年前、この地下に押し込められたのも同じころだ。

 「10年軟禁しておいて、今度は出ろだと・・?まだ核心部分はわかっていないのだ。」

 皮肉と不満をそのまま口に出したところで彼の助手たちもそのお目付け役や警護班も聞こえていないかのようにできうる限りのデータ回収をサーバから行い、それをかき集めている。

 「教授急いでください。こちらです。」

 早川教授はトランクを抱えると促されるままに非常脱出口と思われる出口に案内された。

 「よもやアウォークに襲われようとは。君たちは懐かしかろうな。」

 地下に掘られた脱出用の鉄道に乗り込むと教授はもう一度皮肉を言った。

 「こんなものを用意しているとはやはり自信がなかったのかい?」

 すると警備の一人は表情も変えずに言った。

 「教授の研究は軍事機密に匹敵するのです。おわかりでしょう。どの国にねらわれてもおかしくない。そのためのものですよ。」

 ―――――――
 
 みなが夕食を済まして余韻に浸るような時間、繁華街はそれでも人通りは多かった。
空はいつになく曇って月をすっかり隠してしまって墨のような色をしているが、地上においてはその限りではなく、ショーウィンドウや看板からあふれる鮮やかな光があたりを暖めている。

 それぞれの時間をすごし家路に向かう家族連れも多い中、それはまるでアトラクションショーのように見える光景であった。

 大柄の男たちに守られながら背の低い初老の男が血相を変えて走ってくる。そしてその向こうに・・・異形の姿があった。

 彼らがいくつかある出口の中から繁華街に通じるものを選んだのは追っ手があった場合に身を隠しやすいであろうと言う考えからであったが、それはあくまである程度引き離していないと意味がない。

 男たちが街中であることを意に介さないようにハンドガンを抜き、迫ってくる巨躯に容赦なく発砲する。

 乾いた音には現実味がなく、通行人たちは足を止めてそれを見物した。

 異形のものは銃弾など意に介さずに進んでくる。

 「渡してもらおう。」

 人間とは到底思えぬものから、確かにそういう言葉が漏れたその時だった。
蜘蛛のようなその体が大きく前のめりに倒れこんだ。そしてその後ろにSF映画に出てきそうなロボットのような鎧騎士のような姿があった。

 それを逃すまいと警護についていた六人のうち三人がベルトに触れた。

 「変身!」
 「Action」

 ぱぁっと光が走るとそこには追ってきた男、香川のものよりもうすこし大柄なロボットのような姿が三つ増えていた。

 それを目撃した子供たちから歓声が上がったが大人たちはとたんに血相を変え子供をつれて蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 「教授、今のうちに!」

 教授はうなずくとトランクを抱えなおし背を向けた。

 化け物は倒れた状態から驚くような跳躍を見せ、そして尾とも思しき箇所から何かを噴出した。

 それはかすかに教授をそれ、護衛の肩を襲うとその威力で彼を地面に押し付け、そしてそこにつなぎとめた。
彼はそこから逃れようとあがいたが恐るべき粘性を持っていてはがれなかったため、上着を破棄せざるを得なかった。

 立ち上がった化け物は四対の鎧に囲まれていた。

 「ハードウェアシステム。確かにそれらに囲まれては分が悪いな、オマケに一体はどうやら新型。だがこっちも単身乗り込む思うか?」

 教授のうめく声が聞こえた。

 香川がさっとそちらに視線を走らせると目の前の化け物をもう少し小さくしたような個体が教授の前にいた。
そして同じ個体があたりを取り囲むように何体も現れた。

 「こんな逃げ道があると知らなかったのであわてて呼び寄せなくてはいけなかったがね。」

 ―――――――

 数分後、香川はトランクを提げた化け物のボスに肉薄していた。

敵の包囲網は何とか破ったが、まともに動けるのは香川だけになっていた。教授の安否も定かではない、だが今は教授の命よりもトランクの中身のほうが問題だった。

 香川はベルトのスリットにブロックの破片のようなものを差し込んだ。

 「P Jet Charge」
 機械音声が告げる。

 「Pジェット!」
 「Action」
 香川の言葉に機械音声が答えると右腕に沿って輝く刃が現れた。
ボスをかばうかのように最後の一体が前に出て粘液を放ったが香川の腕から伸びたプラズマジェットはそれを切り裂き相手もろとも両断した。

 彼らの移動速度が速いため、逃げ切れていない一般人から悲鳴も上がるがそんなことは気にしてはいられない。

 「待て!」
 
 するとボスが振り返り、トランクを上に放った。

 (その手に乗るか。)
 香川は相手にまっすぐに突っ込みつつ別のブロックをベルトに差し込んだ。

 「Inpact Knuckle Charge」
 「インパクトナックル!」
 「Action」

 言葉の端が終わらぬうちに香川の腕は目いっぱい的の心臓に伸ばされていた。
がしかし・・その拳は届くことはなかった。

 背中から伸びていた長い四本の腕が彼の体を受け止め、そして爪をめり込ませていた。

 まぶしく輝いていた香川の拳は光を失い、それに気づいた時彼は顔面にまともに粘液を受けたのだった。

 「任務はこれをもって帰ることだ悪く思うな。」
 化け物は香川を放るとトランクを拾おうとした、だが香川はまだ動けなくなったわけではなかった。
気を許した相手の手元をほぼ正確にねらって攻撃してきたのである。
 
 宙に上がったトランクに異形の者は腕を伸ばしたが香川は辛くも取り戻した。

 「それを渡せ。」

 香川は答える代わりにしっかりと胸に抱いた。

 「よかろう!」

 化け物が大振りにけりつけると香川はまるでワイヤーアクションのようにはね飛んで近くのレストランのガラスを派手に割って転がり込んだ。

 外の状況に気づかなかった者達に物騒な物音が響いたのと目の前に非日常なものが転がり込んだ事で店内はパニックに陥った。
 
 香川は視界を奪われたまま立ち上がったが自分のいる場所さえわからなかった。

 化け物は悠々とそれを眺め、そしてパニックに陥っている客たちを信じがたい力で蹴り飛ばし、投げつけながら彼に向かっていった。

 そして相手の喉に掴みかかり、床から浮き上がるくらいまで持ち上げたとき下からいらだたしい子供の泣き声を感じた。

 「わー!ママをよくもやったな!こいつ!!」
 ひざまで程度の背丈しかない子供がまとわりつき、彼なりに殴りつけている。
本来ならば気の毒に思うかもしれないが、のうのうと苦労も知らずに生きているガキなぞイラつくだけだ。
化け物はこれ見よがしにその子を蹴り飛ばした。だがフロアの端まで飛んでいって動かなくなったのは飛び出してきた少女だった。
 子供が驚いて駆け寄る。

 「胸糞悪い、これでは俺が悪人みたいではないか。え?!」
香川を壁に押し付けると怪物はそう怒鳴った。
 香川は目の前にいるであろう敵に渾身の正拳を見舞うと逆に相手の首を掴んだ。そしてそのままベルトのスリットにブロックを装填する。

 「Inpact Knuckle Charge」
 「インパクトナックル!」
 「Action」

 言葉が終わるかどうかで打ち終わった拳は確かに敵の顔に当たった、だが捕らえてはいなかった。

 「うご・・・て・・・てめぇ・・」

 顔の左側をほぼ失った状態で異形の者はおぞましい声でうめいた。そして怒りに任せ香川を壁のなかにまでめり込ませると任務を忘れたかのように激しく殴打した。

 香川を覆っている鎧は激しく火花を散らし、システム状況を知らせるマスク内側にはダメージの深刻さをしめすアラートが激しく警告を始めた。

怒り狂った怪物が香川を攻撃する間一般人の少年が一度だけわって入ったがしたたかに殴り飛ばされ先ほどの少女とは逆方向の壁で頭を打ち付けた。

 「なぁ新型さんよ、顔半分飛ばされるってのはどんな気分か味わってみるかい?」
今度は床に頭をたたきつけられた。そのまま何度も踏みつけられる。

 「ハ・・ ハード・・テクスチャ・・」
 「System Error」

 そしてとうとう内部にまで小さな火花が散り始めた。トランクの位置を特定していたマーカーも反応が消えた。
アウォークと呼ばれる化け物相手の実戦は初めてではあったが遅れをとるわけには行かないはずだった。そのためのシミュレーションも重ねてきたが結果はこれだ。
 何か反撃のチャンスはないかとかんぐる暇もないほどの猛攻・・・猛攻・・・・?
 否、攻撃が止んでいる・・誰かと話している。

 「なんだ・・羽化し立ての虫みたいなていだな。お前は何者だ。」

 衝撃、そして相手が退いた。激しく殴りあう音、逃げ惑う悲鳴。何だ、なにが起こっている。

 「お前は動かなくていいんだよ!」
 再び床にめり込まされる。

 本格的にもう持ちそうにない。何かがいる、そしてそいつと敵は戦っている、しかしこのままでは勝てそうにない、何か、何か方法はないか。
香川は自分が思い切ったことを考えようとしているとわかった。

 (しやしかし・・他に方法はない、敵にあれを渡すわけには行かないのだ。)

香川は火花を散らしながら身を起こそうとした。だが敵はそれを許さなかった。
 頭部への強烈な衝撃。そしてそれを受け取ったかのように香川から鎧がはがれ、金色の網になりそれがほどけて消え、ベルトが腰からほどけて転がったた。

皮肉なことにそれによって香川は事態を目の当たりにすることになった。

 敵の足の下から転がって離れてみると目の前にいたのは今まで戦っていた蜘蛛のような化け物と、そして羽化し立ての昆虫のような乳白色の半透明な甲殻をまとった何と言う生物とも取れない人型の生き物がいた。
乳白色の甲殻は皮下の血管や組織がほんのり透けて見える状態で、触ったらへこんでしまうのではないかとさえ思えた。
 その白いほうが香川のベルトに注意がそれたのを蜘蛛は見逃さなかった。

毒々しいかぎ爪で相手に掴みかかり、背中の腕でしっかりと掴んだ。

 「お前は何者だ。見たところアウォークのようだがどこの所属だ。なぜ邪魔をする。」
 白いほうは答えずにしたたかに蜘蛛の腹に膝蹴りを入れた。
微かに揺らいだ蜘蛛だったが含み笑いをする。

 「この程度か?」

 その最中、香川はトランクに取り付いた。ナンバーは知らされていない。本物かどうかもわからない。だが今は他に方法がなかった。
ナンバーは8桁だが、鍵はかかっていない。
 躊躇なくあけると中には先ほどまで香川がつけていたベルトによく似たベルトが入っていた。

 その行動は蜘蛛の複眼の視野に入らないわけがなかった。

 「貴様!」

 香川はそれを腰に巻くと毅然と敵に向いた。

 「変身!」
 「Action」

 ベルトが輝き当りに光の粒子が現れた。そのとき香川は激しい痛みを感じた。ベルトから何かが突き出し、体にいくつも刺さったのだ。
そしてそれが体の中に入り込もうとする。
 
 「ぐ・・ぐわ・・!」
 「Error」

 浮遊していた光の粒子は消え去り、ベルトは香川を拒否するかのように弾け飛んだ。

 香川も蜘蛛も、一体なにが起こったのかわからないままベルトを見つめた。しかし白いアウォークはその隙に自由になろうとあがいた。
蜘蛛はすぐに気づき半分になった顔のままにらみ付け、そして相手を床にたたきつけようとしたが、白いアウォークは蜘蛛の間接を蹴り飛ばしてひらりと着地した。
そしてなにを思ったかベルトに走る。
 
 蜘蛛はすぐに気づき尾に見える箇所から糸を飛ばし、その足を絡めとった。
白いアウォークは転倒したが、その糸と呼ぶにはあまりに太いそれを掴むと強く手繰り寄せた。

 「俺と力比べのつもりか。」
 その言葉が終わらないうちに白いアウォークは大きく振り回した。大き目の双眸が発光したようにも見え、弱弱しい甲殻が赤く染まったかのようにも見えた。
蜘蛛はしたたかに壁に頭をめり込ませたが、すぐに苛立たしげに飛び出した。

白かったアウォークの甲殻は玉虫の羽のように様々に色を変えていた。そしてその手にはトランクの中にはいっていたベルトが掴まれていた。

 香川は飛び出してそれに手をかけたがベルトが拒否するかのように彼を何かしらの力で弾いた。

 「まさか・・お前・・」

 香川と蜘蛛が見つめる中、彼ははっきりとした口調で叫んだ。

 「変身!」
 「Action」

 ベルトが輝き、足にまとわりついて糸が分解し消え去るのと空中に光の粒子が現れたのはほぼ同時進行だった。そして現れたそれらがまるで全身を縫い上げるかのように彼足元から包んで行き香川がまとっていた鎧よりもいくらか生物的な、しかし生物と呼ぶには戸惑われるような輝く姿がそこにあった。

 「変身・・した・・だと・・?!・・」

 香川の言葉に背を向け、ベルトの男は蜘蛛に向いた。

 オパールのような幻想的な色味を持った銀色の甲殻を持った戦士の姿がそこにはあった。


2010-05-03 02:49  nice!(5)  コメント(2)  トラックバック(0) 
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コメント 2

takehiko

これはすごいっ!
読んでいてどのシーンも絵が浮かんでくる凄さ。
まるで映像でみているようです。
言葉のチョイスが的確で、無駄が無いのでしょう。

香川さんも気になりますが
消えたサイエンシストも、ベルトの謎も
この怪人の謎も気になるところ。
でも最大の謎は白いアウォークの男ですね。
そもそもなぜアウォークなるものがいるのか。
色々想像をめぐらせます。

まずいなぁ。
先が気になってしょうがないぞ・・。
次なるシーンを首を長~くしてお待ちしております。

by takehiko (2010-05-03 15:53) 

xephon

takehikoさんコメントありがとうございます。

おだてたって何もでませんよーw
読み直すと無愛想で色気のない文面だなって思います。

特撮ものを活字で描くのって言うのは結構厳しいものですねw
by xephon (2010-05-06 09:36) 

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