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Scene”Arts” [仮面ライダー]

 白銀の戦士はくいっと軽く首を外に向けた。

 蜘蛛は促されるように店の外に一足飛びに飛び出した。入ってきたところと別のところだったものだから再びガラスやら窓枠やらが道端に四散する。
 「こいつは想定外の展開だ。まさかつけちまうやつがいたとは。しかし持って帰るのが仕事なんでね、お前のようなものがいるのとは合点がいかないが、そいつを調べるのは俺の仕事ではない。悪いが勝手に回・・・」

 言葉が終わる前に白銀が間を詰めた。蜘蛛がそれに反応し身をよじると腹部のあったあたりに突きが放たれていた。
こいつはまずいとすぐそこから離れると案の定、いた辺りに大振りな、しかし素早いけりが放たれ、ごうと空気が裂かれる音がした。

 「おいおい、話は最後まで・・って殺りあっているときにそっちがおかしいな。」

蜘蛛は背むしの体をさらにかがめ、そしてさっと横に走った。そして落ちていた仲間の体の左側を片手で拾うと他の手足壁に取り付き、そのままのおぞましい動きで、そして驚愕すべき速度で壁を登り始めた。

「追って来い。」
相手に逃げる様子がないことを利用し、蜘蛛は自分に有利な展開を組み立てるつもりだった。
 蜘蛛は敵が何を身につけたのは知っている。それを相手にするには視界が半分失われた状態では極端に不利だった。
彼は拾った半分になっている仲間の体から器用に頭部を切り取りながら上っていた。

 白銀色の戦士は上っていく蜘蛛を見上げたが、すぐに相手に取り付こうと地を蹴った。
遊園地にある逆バンジーのようにその体は空に踊り、蜘蛛に組み付こうとしたそのとき、その顔に首のなくなった蜘蛛の死体がぶつけられた。

 バランスを失い転落してゆく戦士を広大な視界の中に収めた蜘蛛はかすかにだが笑みを浮かべた。
 「落ちたところを見ると、まだ把握していないようだな。」

 外に飛び出してきた香川が辺りを見回すとそこには誰もいなかったがすぐ横に先ほどの戦士がものすごい勢いで着地した。
 彼に警戒心を持ったが、すぐに相手の見つめる上を見た。そこには屋上まで上り詰める蜘蛛の姿があった。

 あれを逃がしていはいけない。香川が思った時、戦士は跳躍していた。
香川はもう一度自分のベルトを巻いた。
 
 「変身。」
 「Action」
金色の網が身を包む。
ハードウェアシステムは周囲あるいはまだ存在していない元素を選り分け、必要な物質を決まった形に配列させることで強化外骨格を形成する。何度壊されても必要な物質と質量があれば再構成することができるのだ。
しかしソフトウェアと物質の構成、そのためのガイドラインはずべてベルトに依存している。ここが破壊されるか装着者が戦闘不能にならない限り理論上は戦える。
 必要な元素を取り出したときに生じる反物質はエネルギーとしてチャンバーに蓄えられたり、アタッチメントのカートリッジに蓄積される。

 「チェックアップ。」
 「Working」
 変身した香川はシステムに異常がないか自己診断プログラムを走らせた。何しろ実際に破壊されたことなど今回が初めてだったからだ。
 「Complete Condition All Green」

 異常ないことを確認すると香川は白銀の戦士の後を追った。あのビルの屋上程度なら問題なく飛び乗れる。

 ―――――――

 レストランからさっきの男が出てきたが彼に用はない、軽く地を蹴ってビルの上に飛び上がってみると敵はなくなった顔の左側を押さえていた。
 「来たな。いいタイミングだ。」
 言われた白銀の戦士は彼が何を言ったのか理解できた。先ほど拾ったであろう仲間の顔をなんと自分に移植したようだ。
その傷の合わせ目が溶け合ってく行く様子が見えたのだ。

 戦士が降り立つと同時に蜘蛛はそこに太い糸を飛ばしてきた。
 戦士は予期していたように器用に体をひねるとその横に降り立ち、ひととびに間を詰める。だが蜘蛛もそれで終わりはしない、腕の先からも今度は歌舞伎の蜘蛛糸のように放射状の糸を飛ばしてきた。

 死角のないその大きな網にたちまち絡めとられてしまうと、戦士は床を転がった。

 蜘蛛の糸は鉛筆程度の太さがあれば空を飛ぶジャンボジェットを捉えることができる強度がある。そして熱にも紫外線にも強い特性を持つのだ。
その糸に絡めとられた戦士は身動きが取れなかった。

 蜘蛛は悠然と近づいてくる。
 「評し抜けたな。」
 しかし何かを察したようにさっと下がる。
 白銀の戦士から機械音声が発せられていた。
 「Optimization」
 オパールのような白い装甲が虹色の輝きはそのままに紅に染まった。そして静かに、あっさりと網はちぎられた。
 しかしそれも数秒のこと、立ち上がった紅の戦士はいきなりがっくりとひざをついた。
 
 「Cancelletion」

 再び元の白銀のオパールに戻る。

 一度警戒した蜘蛛であったが、そう長続きするものでないと察し、再び網を出そうと構えたとき見覚えのあるロボットのような戦士が現れた。
  「またお前か。」
 そのまま網を相手に放ったが、相手は予期していたようだった。
 「Pジェット!」
 「Action」
 網を切り裂きその刃が蜘蛛を襲う!
 その威力は知っていたため無理せずに大きく身を放って避けると蜘蛛は追撃に備えさらに転がって離れた。
 「余計なのが増えたな。」

 相手の糸や粘液の厄介さは身をもって知っている香川はあらかじめチャージした状態で追ってきたのだった。
 しかし、このやけに消耗している白銀の戦士が果たして味方であるのか敵であるのか香川には判断できていなかった。

 どちらにも警戒していると蜘蛛もそうしていることが見て取れた。どうやらアウォーク同士であっても仲間ではなさそうだ。
 香川は左腕を掴むようにした。

 「Variable Sword Unlock」
 はずした装甲の一部から刃が伸びそれは直刀になった。
 香川はその柄に当る部分にカートリッジをはめ込む。
 「Energy Edge Action」
 剣の刃に沿って煌々と光が宿った。

 構えられた剣を見ると蜘蛛は舌打ちをした。得意の粘液や糸も、あの高エネルギーの刃の前には功をなさないだろう。
かといって相手が反応できない速さで連射することも彼自身できることではない。
 とはいえ、一度追い詰めたことのある相手だ、剣を跳ね飛ばすことができれば何とかなるかもしれない。
気になるのは消耗状態であるもう一体である。
今はあの状態でも何をしてくるかわからない。いや、あの状態のうちに何とかせねばなるまい。

 蜘蛛は香川に大きな網を放った。香川はそれを難なく剣で切り裂く、ところが蜘蛛の本当の狙いは香川ではなかった。
香川の動きを止めつつ白銀の戦士にももう一度網を放っていたのだ。

 白銀の戦士は反応していた。

 「Scaning」
 彼の前面に半透明な大きなスクリーンが現れる。
網はそれに阻まれる形になったが、それを通過し、白銀の戦士に襲い掛かった。
 さしもの二度目の攻撃、戦士もかなわないと思ったのかあわてて貯水タンクの陰に転がり込んで難を避ける。
網はそのあたりに展開し、大きな蜘蛛の巣となった。
 
 相手がいくらか動けるくらいまで回復したことを知ると蜘蛛はすぐ追いかけた。
貯水タンクの逆に回り、今度はまっすぐに伸びる糸を飛ばした。
 戦士はコロンと転がると素早く立ち上がり飛び掛ってきた。だがそんな見え見えの攻撃などいい的でしかない。
蜘蛛は尾を突き出すと粘液を発射しようとした。ところがそれはかなわなかった。

 尾のあった部分から粘液の代わりにどす黒い体液を撒き散らし、蜘蛛はあわててそこを離れた。
どうやら白いほうにかかわりすぎたようだ。

 香川は剣を構えなおしにじり寄った。

 あれが邪魔だ。そう思った蜘蛛は香川の剣に向かって糸を飛ばすがそれはいいように切り払われてしまう。

 「Analyze Complete」
 白銀の戦士から機械音声が聞こえた。
 「アームズ」
 彼がつぶやくとその目の前にまるで見えないスクリーンがそこにあってプロジェクターで映像が投影されたかのように、パソコン画面のアイコンのようなものが浮かび上がった。
 非日常的光景に他の二人が思わず身構えると彼はそのアイコンの一つ、剣を表していそうなものにそのまま手を突っ込むとそこから本物を引き出した。
それと同時にアイコンはすべて消えた。

 敵が二人とも剣を持ったことで蜘蛛は歯軋りをした。もし白いほうも糸や粘液を切り払うことができるならば前と同じ手は使えなくなる。
 蜘蛛はもう一度網を放つと相手がそれを切り抜けている間にビルから飛び降りた。

 白銀の戦士が追おうとすると香川が立ちはだかり、剣の切っ先を向けた。
 「ベルトを返してもらおう。」
 戦士は答えず宙返りしながら香川を飛び越えるとそのままビルの谷間に消えた蜘蛛を追った。

 香川がビルのヘリに取り付くと蜘蛛はスパイダーマンよろしく糸を駆使しスイングしながら移動して行き、白銀の戦士は今まさにビルの壁を蹴り飛ばしてその反動で追いすがろうと言う無茶をしようとしているところであった。

 「Optimization」
 オパール色の甲殻が鮮やかに空色に変わる。
 そしてその無茶をあたかも当たり前のようにアクロバティックに体躯を駆使しながら追いすがって行った。

 香川はあわててビル伝いに走ったり飛び移ったりしていくがまったく追いつかない。
仕方なく身分を明かしてバイクを借りなくてはいけなかった。

 青色に変わった戦士が追ってくるのを視野に入れながら、蜘蛛は糸を使って高速で移動していた。
意外なほどの速度で追いついてくる戦士に向かい、蜘蛛は振り向きざまに糸を放った。
 すると戦士は先ほどまでとは比較にならないほどの身軽さでさっとかわすとビルからせり出していたポールをへし折り、それを投げつけた。
蜘蛛はそれを網で絡めると壁に放り、スイングに勢いをつけて再び屋上に上がった。ところがそのとたんに首にワイヤーが絡まり引き戻され落とされた。

 反対のビルに傾いた窓掃除のゴンドラがあり、その上にワイヤーの端を持った白い戦士がいた。
 蜘蛛は自重で首が絞まらないように自らを支える糸が放ったが、白い戦士がその糸の着弾点にバケツを放ったためそれを捕らえてしまった。
蜘蛛は忌々しげに一度に三方向に糸を放ち自らの落下を止めた。
 すると今度は戦士が逆に飛び降りた。ワイヤーを掴んだままで。
 「いまいましいやつめ!」
 蜘蛛は背中にある腕でワイヤーを掴むと口元に手繰り寄せ噛み千切った。
 
 戦士は着地するとすぐさま飛び上がった。
三本の糸でビルの間に固定されている蜘蛛の上に飛び乗るとその首に剣をつきたてようとした。
 蜘蛛は背中の三本の腕で敵の顔と足元と剣を持つ腕を同時に攻撃しようとしたが、それにいち早く気づいた戦士はすぐさまそこを飛び、ビルの壁に取り付いた。

 糸のうち二つを離し、蜘蛛は勢いをつけて敵と同じ高さの逆のビルの取り付く。
 「なじんでいないにしてはいい動き、いや、なじんできたのか・・?」

 「アームズ」
 再び戦士の前にアイコンが現れる。そして戦士は剣をアイコンに突っ込む代わりに別のアイコンに手を入れた。
蜘蛛があわててそこを離れる。すると蜘蛛が這ったすぐ後ろから次々にガラスが砕けていった。
 「おいおい。照明が消えているからて残業しているやつがいないともかぎらんだろう。」
蜘蛛がそういいながらビルの中に逃げ込む。
 白い戦士は銃を構えたまま反対側のビルに飛び移ると蜘蛛の後を追った。
 
 オフィスのドアから廊下出るととたんに網が飛んできた。
すっとバックステップすると網は大きすぎてオフィスまで入ってこれなかったがすっかり通れなくなってしまった。
 すると戦士は一度静かに耳を澄ますと、少し横にずれて壁を殴りつけた。
壁はその部分を中心にサッカーボールほどの穴が開き、、その向こうに破片をかぶった蜘蛛が覗いた。
 戦士は躊躇せずそこに銃を打ち込む。

 網を切り裂いて現れるとばかり思っていた蜘蛛は逆に不意をつかれ、銃撃を受けた部分からしゅうしゅうと煙を上げながら廊下奥に逃げた。
戦士はそのまま壁の穴を広げおあとを追おうとしたが、行く手には蜘蛛の網がいくつもいくつも張られていた。
 再び銃の代わりに剣を取り出すと戦士はそれを切り裂き、奥に進んだ。
 
 少し行ったところで階段とエレベータがあった。エレベータはこの階に止まっていた。そして階段のほうには網がかかっていた。
戦士は壁にぴたり背をつけたままエレベータのボタンを押した。
 扉がゆっくり開き、照明の落とされている廊下にオレンジ色の筋が広がる。そしてそれはしばらくしてゆっくり閉じた。

 戦士は階段に向かいその網を払おうとしたときに再び廊下にオレンジ色の光が伸びた。
振り向くこともせずに横に転がると今いたあたりに太い糸が伸ばされていた。
 その場をさらに避けるとそこにも糸は飛んできた。
相手に転がり足を蹴り払うと蜘蛛は倒れかけたが背から伸びた長い手を使ってそれを阻止した。だがその崩れた体制を狙い、戦士は剣で切りつけた。

 派手に体液を撒き散らし、蜘蛛は崩れ落ちた。
これが止めだとばかりに頭に剣を振り下ろすと、蜘蛛はしぶとくもそれを避け、
網を飛ばしてきた。
 戦士がそれを剣で払った時、蜘蛛はエレベータの扉の中に消えていた。
開く扉の遅さにいらだって斬り飛ばすと床に穴が開いていた。蜘蛛は器用にそのロープを伝って高速で降りてゆく。

 戦士は躊躇なく飛び込んだ。蜘蛛が網を出そうと腕を構えたときそれはすでに切り飛ばされていた。
だがこの時、蜘蛛は他の腕三本を使ってこの剣を奪い取ることに成功した。

 エレベーターシャフトの底に到着した戦士は上から襲い来る蜘蛛の剣が届く前に銃を取り出すと激しく攻撃した。
狭いシャフトの中を蜘蛛は器用に移動しながらいくらか攻撃を受けつつもそれをしのぐと手近のドアを破ってそこを出た。

 戦士が飛び上がってそれを追うとエントランスを破って出てゆく蜘蛛が見えた。
それを追い、ビルから出てみると見覚えのあるロボットのような強化服の男と蜘蛛が対峙しているところであった。

 「アームズ」
 戦士は再びアイコンを出し、そこからまた剣を引っ張り出した。そのとたん蜘蛛が握っていた剣が光の粉のようになって四散した。

 蜘蛛は二人を見比べたあと「分が悪いぜ。」とぼやいた。そして上に糸を放つと再びビルの谷間を移しようとした。
それを見た香川が飛び上がってその糸を切断する。
 蜘蛛はスイングの勢いのままに壁に張り付くとまた別のところに糸を放った。

 蜘蛛は戦士の巻いているベルトを奪いに来たはず。その任務を放棄するつもりなのだろうか。
それはそれでいい、香川はあとは戦士からベルトを取り戻せばいいのだ。
 「そのベルトを・・」
 香川がそう言い掛けたとき、戦士は再び空色に変わったところだった。

 「またかよ!」
 バイクにまたがりながら香川は毒づいた。

 蜘蛛はスイングできるより高いビル街に向かうと戦士をひきつけつつ巧みにビルの間を飛び回った。
気づいてみればあたりにはぞっとするような蜘蛛の巣が張られ、戦士はそれらに取り囲まれる形になった。

 香川が追いついたときにはビルの間に縦横無尽に張られた網によるジャングルジムのような常軌を逸した光景の中に戦士は立っていた。
 「これではむやみに動けば絡められてしまうぞ・・」
 香川が戦士を見たとき、彼はビルの壁に飛びつき窓枠に取り付いたところだった。
彼のいたところを見るとそこに網が増えている。

 蜘蛛はにやと笑った。
 「相手に網を出してもきざまれてしまうのなら、いないところに出せばいい。そしてそれを繰り返した後、そこに追い込めばいいのだ。みろ、お前の動ける場所がどんどんなくなってゆくぞ。」
 
 戦士の肩を持つわけではないが、香川は毒づいた。
 「昔からスパイダーマンってのが嫌いだったんだ。やつが出した糸を一体誰が片付けるって言うんだよ。」
 ベルトの裏側に手を伸ばすとそこにあるものをはずした。
 「Variable Shooter Unlock」
 取り出した銃を構えると蜘蛛のいる辺りに次々放つ。

 香川の存在に気づいた蜘蛛は彼にも網を投げてきた。だがもともと彼との間にいくらか網があったため、それらにかかり、香川の元までは届かなかった。
これ幸いと香川はさらに銃撃した。
 蜘蛛は網の上を器用に歩き回り、それをかわしていたがその銃に気を取られ過ぎ、戦士の接近を許してしまった。

 白い体は網だらけの中でいくらか保護色になっていた。
 その拳が蜘蛛の左頬を殴り飛ばすと、相手は網から転落し、下層の網に絡まったように見えた。ところが寸前、蜘蛛は糸を出し、自分の体を支えていた。
 戦士はその揺れる体に飛びつき今度は剣を振りかざした。
 
 至近距離で放たれた糸は戦士の剣を握る腕を捕らえ、その勢いのまま網に貼り付けた。
 右手を後方の網に縫い解けられてしまった戦士はそのまま逆の腕で敵を殴ろうとしたが、相手はすいとかわすと器用に網の上を走った。

 蜘蛛が自分の巣の上を自由に歩けるのは粘着性のない糸の上を歩いているからである。
あのアウォークにそれができると言うことはここに張り巡らされた網が、こちらを捕らえるために放ってくる来るあの網とは違い巣を作るやり方を応用した作り方をしているに違いないとか側は思った。
 しかい、敵のように粘着性とそうでない糸を見分けることは香川にはできなかったし、たとえできても同じように歩くことはできないだろう。
できることはここから攻撃することだけ。

 蜘蛛が戦士を絡めとろうと思った時下からまたも銃撃が襲ってきた。
 「いちいちうるさいやつ。」
 蜘蛛はそちらに向かって糸を放った。しかし放った糸は事もあろうにその銃に砕かれてしまう。
あいつを何とかしないと目的の物を回収するにも面倒らしい。そう判断した蜘蛛は香川に向かってあちこちの網を伝って降りてこようとした。

 香川は敵を銃で追ったが、網に視界をさえぎられ、なかなか命中しない、だが敵が地上に降りてきたなら今度は遅れをとるわけには行かない。
銃で敵をけん制しながらカートリッジをベルトに装てんする。

 「P Jet Charge」
 
 敵を狙うその先で戦士がアイコンから銃を取り出したのが見えた。
 
 蜘蛛が香川に襲いかかろうと身を乗り出したときその背に激しい銃撃が襲った。
見上げると片腕を捕らえられたまま逆の手で銃を構えた戦士が次々発砲していたのだった。そしてそれを確認した刹那、今度は腹部に次々ダメージを受ける。
香川が撃ち込んだのだ。
 
 上下からの銃撃に蜘蛛は体液をほとばしらせながら小刻みにはねた。
 
 「どうやらベルト回収はこいつを倒したあとのほうがよさそうだな。」

 うめき声を上げていた蜘蛛であったが、そのまま網から香川の真上に落ちてきた。

 「P ジェット!」
 「Action」

 銃を放り、伸ばした香川の腕からプラズマジェットの刃が伸びる。
そのとき蜘蛛の体が横にずれた。
 「捨てると思ったよ。」
 低い蜘蛛の声が聞こえた。
 自分の体を移動させた糸を放ると、蜘蛛はそこから香川に襲い掛かった。
 
 「ぬう!」腕を振り払う香川であったが蜘蛛はそれさえも潜り抜け香川を押しつぶした。
プラズマジェットの刃が消えうせ、香川は両手両足を蜘蛛の背中の長い腕に押さえつけられる形になった。
 蜘蛛のどす黒い体液が次々に香川の上に落ち、青いメタルの体をぬらしていった。
 
 「また一本取っちまったようだな。」

 またも前回のような敗北を帰すわけには行かない。香川はすぐさまモードを変えた。
 「ハードテクスチャ」
 「Mapping」

 香川を覆っている装甲の様相がみるみる変わった。体型がいくらかがっしりとし、色味も濃くなったように見える。
 「Complete」
 
 蜘蛛は怪訝そうな顔をしたがすぐ鼻で笑うと残っている日本の腕で殴りつけた。
硬いものが衝突する派手な音がしたがそれだけだった。
 相手が微動だにしなかったのが気に入らなくて蜘蛛はさらに力をこめて殴りつけた。だがうめき声を上げたのは蜘蛛のほうだった。

 香川はゆっくり身を起こす。蜘蛛が押さえ込もうとするが意に介さないようにゆっくり立ち上がった。

 「なるほど、装甲を強化し、その重さに耐えうる出力を備えているってことか。だがそれだけだ。
 蜘蛛は少しはなれ糸を放った。
香川はそれを力任せに引きちぎる。だが蜘蛛は一度に何本も放った。
最初引きちぎっていた香川であったがハードテクスチャモードのハードウェアシステムはそうでないときに比べ動きは鈍ってしまう。
業を煮やした香川はカートリッジをベルトに装てんした。
 「Inpact Knuckle Charge」
しかしその動きが緩慢だったためにその間に幾重にも糸が放たれ、そのまままるで糸巻きのようにぐるぐる巻きにされてしまった。

 「お前が破壊できないのは癪だがそうしていたらいい。」

地面に転がった香川は網をよじ登ってゆく蜘蛛を見上げるしかなかった。
そしてさらにその上で戦士がアイコンから剣を取り出し右手をつないでいる糸を切り払うのが見えた。

 「もうお前を援護してくれるやつはいないぞ。おとなしく渡せば命だけは助けてやる。さぁ、とっとと外せ。」

 戦士は網ではなく糸の上に乗っていた。

 「周りを見ればお前にもう勝ち目がないことくらい明白だ。」
 蜘蛛は勝ち誇ったが戦士は意に介さないように言った。
 「お前が・・閉ざしているのか。」
 「何?」

 戦士は自分の胸に左手をかざすしながら伸ばすと握りながら左に開いた。
 「その門(ゲート)開かせてもらう。」

 「何をわけのわからないことを。」
 蜘蛛が一度に四本の糸を放ったが戦士は軽く飛ぶとその上に乗った。

 「鍵は握った。」
 「鍵?」

 「Optimization」
 戦士が青く変わる。

 次の瞬間蜘蛛は激しい痛みを背に感じた。青い戦士が深々と何箇所も背中を斬りつけたのである。
だが蜘蛛の再生力はすさまじい、見る見る傷がふさがってゆく。
 蜘蛛は振り返り大振りのパンチを見舞ったが、青い戦士はたやすくそれをかいくぐり、今度は腹部に何度か斬りつけそこから離れた。

 「青いときはどうやらさほど力が出ないらしいな。だから皮膚の弱そうなところを狙ったのだろう。だが俺の再生力をなめるな。」

 「Cancelletion」
 戦士は再び白銀に戻る。
 
 「悪あがきはやめておとなしくしろ。」

 「スキル」
 戦士の前にアイコンが並ぶとそのうち一つに彼は軽く触れた。

 「Cobweb」
 音声とともにそのアイコンが回転しながらベルトに張り付くのに瞬きするほどの時間もかからなかった。
空間にその文字が残り、もう一度機械音声がした。

 「Emulation」
 
 蜘蛛は何かされると思いすべての腕から糸や網を飛ばした。
飛ばしたはずだった。
しかし実際は何も出ない。

 「蜘蛛の糸は体内では液体。それが外気に触れると固形化して糸となるが、再び液体に戻ることは無い。」
戦士が言う。

 何のことを言っているのかわからなかった蜘蛛だがようやくその意味がわかった。先の攻撃はダメージを与えるためではなく、糸の材料を外気に触れさせるためだったのだ。

 戦士が腕を前に出すとそこから蜘蛛が出していたものとそっくりな網が放たれた。

 「ぐわ!」
 網に包まれ蜘蛛はもがいたが、それが思っていた以上の剛性と粘度を持っていてあっという間に身動きが取れなくなってしまった。

 「フィニッシャー」
 「何をするつもりだ。」
 戦士はアイコンに触れながら言った。
 「鍵穴(ホール)はそこだ。」
 「Disintegration」 

 戦士のベルトから光の粒子が放たれるとそれが彼を取り巻くように包むと彼はふと浮き上がった。
 
 蜘蛛は身の危険を感じるのだが身動き一つ取れない。
 
 浮き上がった戦士のまとった輝きに触れた網が音も無く消える、と次の瞬間蜘蛛に向かって物理法則を無視して脅威の速さで戦士は突進した。

 「ライダァァァ!キィィィィッーーーク!!」

 蜘蛛は自らの体の中を戦士が通り抜けてゆくのを感じはしたが一切衝撃は感じなかった。

 戦士はビルの壁に音も無く着地すると近くの糸の上に立った。

 「そして世界は開かれる。」

 蜘蛛を捕縛している網が破れた。これを逃すまいと蜘蛛が身を暴れさせたときだった。
自らの腕から光が伸びていた。気づけば足からも、いや、それだけではないあちこちから。
 
「なんだこ・・・」

 言葉が終わらないうちに蜘蛛は光の粒子になって消えた。

 香川はすべてを見ていた。

 「あれが・・あれがArts・・・オリジナルのベルト。」

 戦士はまとった光を失い、一度力なくよろけるとそのまま落ちてきたが、地表すれすれで体勢を立て直すと香川のすぐ近くに降り立ち、どこへともなく歩き始めた。

 動けない香川は追うことができない。

 「おい、おい!お前一体何者なんだ!」

 香川の言葉に彼は背中越しにやや振り返ると一言残し、そして消えていった。
 
 厚かった雲は晴れ、いつの間にか月が出ている。

 「バカにしやがって!」
 
 香川は毒づいた。

 「インパクトナックル食らわせてやりたいわ!」
 「Action」

 右手の先だけ蜘蛛の糸が引きちぎれる。

 月に照らされた白銀の戦士は確かにそう言った。

 「仮面ライダー。」


2010-05-06 04:39  nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 
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コメント 2

takehiko

うわーうわーうわーうわーっ!
カッコいい、カッコいい、カッコいい~~っ!!

主役は絶対白い戦士ですねっ!
謎は謎のままですごく気にはなるのですが
この切り取られたワンシーンの躍動感、スピード感!
ゆっくりじっくり味わいたいのに、
眼が先に追ってしまう~~っ!!

戦いが終わった後の余韻がまた何とも美しい・・。
何なんだこれは~~っ!!

続きを・・・・続きをおおおおっ!!


by takehiko (2010-05-06 15:16) 

xephon

takehikoさんコメントありがとうございます。

なんだか無理やり盛り上げてくださっているようで・・ ^^;

DQNまっしぐらなどっかで見たことあるパクリライダー・・生暖かい目で見守ってやってください。

アイコンネタは自作ですよー。
by xephon (2010-05-07 15:20) 

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