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Scene”Past” [仮面ライダー]

 香川は荒らされた研究施設の一室でベルトから戦闘データを抽出していた。

 ハードウェアシステムと呼ばれる強化外骨格、こんな数時代先取りしたようなものが存在しているのには訳があった。
 かつて日本はアフリカに実力部隊を派遣して、実際に武力行使したことがあった。
もちろん戦争永久放棄の原則があるためにそれは表立って行われてはいない。
 民間企業が生産した自衛装備と言う名目の兵器を元自衛官に装備させ、アメリカが超法規的措置として枠を取った外人部隊として投入したのである。

 事の発端はその時代にそぐわない天才が現れた事と、異常なまでの彼の研究欲だった。
 学会で発表された彼の論文はそれこそSF世界の様なことを実現する理論や方法だった。そして驚くべきことに彼は、これを発表した時、ほぼそれを完成させており、実際に成果を挙げていたことだった。

 学会は驚嘆し、そして戦慄した。
彼の理論は当時の科学者たちには簡単に理解できるものではなかったし、そのような悪魔の研究が実現できるわけもなく、また実現してはいけないとさえも思わせるものだったのだ。
それが現実のものとなって発表されたのだから。

 生物の眠っている遺伝情報を叩き起こしたり、あるいはある生物の遺伝情報を別の生物に移植する。さらには遺伝情報そのものに手を加え、様々な特性を体現させる・・・。
 その結果人間は病を克服し、様々な過酷な環境で生活することが可能だと言うのだ。
遺伝子組み換えなどと言うものはずいぶん前から研究され、そして実用されているが、彼の研究はこのようなものをはるかに超えたところにあった。
 人間を造り変える。いわば改造人間を造ろうという研究と言えるのだ。
 彼は言った。
 「生物は何万年もかけて突然変異と自然淘汰によって自らをより進んだ形へと変えてきた。その時間を短縮する研究なのだ。そしてこれは、進化の過程で失ってしまったものを必要であれば再現することだってできる。我々はついに自分たちの力で自らを進めることができる様になったのだ。」
 学者のほぼ全員が猛烈に反論した。倫理に反する。人のして良いことではない。
 だが彼はそれを納得しなかった。
 
「ならば、人工臓器やサイバネティック技術はなんなのだ。体の中に機械を埋め込んだり、まがい物の腕をはめたり、それは生命の尊厳を汚しているとは言わんのか。私の技術は生命そのものの力だ。この研究こそがこれからの人類を救うことになろう。」
 
 学会に追放された彼は危険な思想を持った者として母国ドイツに研究所とその成果の一切を焼却され、逮捕されそうになる。
 命からがら亡命した彼に目をつけたのが、有り余る予算を持ちながら、先進国に対して軍事的技術が極端に遅れていたアフリカの某国だった。
 彼に安住の地と研究予算を提供する代わりに、その研究成果を兵器転用するように持ちかけたのだ。
世界に拒絶され、孤立無縁になった彼にまさにこれ以上ない復讐のチャンスが与えられたのである。
 彼の研究そのもので世界を変えることができる。
 核のようなおぞましい兵器など使わずに世界と戦える。否、彼の研究を否定した者たちには彼の研究そのもので思い知らせてやらなくてはならない。
 中東では内紛が絶えていないこともまた改造人間たちの実践データを取るのに実に都合が良かった。

 かくしてアフリカの砂漠の地下施設で彼は人類の進化ではなく、兵器転用について研究開発することになった。
 彼のもとには充分な施設と予算、研究材料、そしておびただしい被検体が提供された。
 そしていつの間にか彼には助手が現れ、やはり理解されなかった天才やマッドサイエンチストなどが集まってきた。
 また彼らだけではどうにもならない場面が研究、あるいは開発上出てきた場合はその道の高名な科学者を拉致して軟禁し、研究させることもあった。
 天才達しか理解できない高度な理論や技術が吸収されあい新たな開発が進む。その進歩は外の世界とは到底比較にならないものだった。
 
 こうして出来上がっていったのが秘密結社『CADUCEUS』だった。

 CADUSEUSは自分たちの兵士が戦いあうことがない限り戦争の下請けも引き受けるようになり、その需要は非公式でありながら中東や、軍備に遅れをとっている国々を中心に世界中に広まってゆき、支部まで造られていった。


 戦場に怪人が現れる。
 その事実がもはや水面下の出来事ではなくなってきたころ、すでに世界の軍事バランスは傾きかけていた。
 先進国が持っていない脅威を貧国が備えるようになったのである。そしてそれは使いようによっては最新鋭戦車や戦闘機にも勝るとも劣らない戦力になろうとしているのだ。

 事態を重く見たアメリカは国連に働きかけ、改造人間とCADUCEUS掃討を提案した。
各国も問題は深刻に受け止めていてこれに同意、わかっているだけの支部を基地ごとバンカーバスターなどを多用して爆撃して数日で葬った。
 これは支部においては研究施設ではなく、改造人間たちのメンテナンスや派遣管理に特化してはいるがそれゆえ拉致された研究者や科学者はいないと言う判断のもとにだった。
 これに関しては明確な裏づけがあったとする説と、知らなかった、あるいは無かったものとして処理をし、とにかく敵の出城を破壊しておきたかったと言うのが本音だったと言う説が今でも対立している。
 問答無用のこの強行はまさに異例中の異例とも言えたが、相手が人間ではないと言う考えや、自分たちの倫理を破壊する危険な存在として認識された結果とも言えよう。
 
 続いて多国籍軍はCADUCEUS本部を総攻撃したが、地の利と支部にはない先進国をも凌駕しうるオーバーテクノロジーとさえ言える科学力の前に長期にわたる泥沼戦となった。
 何度か特殊部隊が要塞内部に侵入しても白兵戦で圧倒的能力差を持つ怪人たちの前に深部まで行くことは全くできなかった。

 その戦況が変化するのは戦乱に乗じ、脱走を図った一人の科学者によってだった。
砂漠を放浪していた彼を保護したのは日本の自衛隊だった。奇しくも日本人だった科学者はそのまま保護され本国に戻ることになったが、彼はそこでほんの一部ではあるものの知りうる限りのCADUCEUSの持っている技術と、自らが手がけていたシステムを丸々提供した。

 ハードウェアシステムと言うそれは、遺伝子を改造することなく外骨格と装甲で補強することにより怪人たちと対等に戦える常人を作り出すものであった。

 日本は即座にこれを量産、一時的にアメリカ国籍にした元自衛官に装備させ、これをアメリカ軍の一部隊として送り込んだのだった。

 要塞内部に侵入して怪人たちを掃討し、施設のすべてを爆破できたのはハードウェアシステムあっての功績と言えよう。

 その後ハードウェアシステムは各国に提供され、それぞれ残るCADUCEUS支部の掃討のために運用された。

 本部データにあった支部はすべて殲滅され、CADUCEUSは壊滅したはずだった。

 

 しかし。

 先日襲って来たのは間違いなく怪人、研究者たちの間で『起こされたもの』と言う意味のでつけられた俗称『アウォーク』だった。

 しかも本部殲滅作戦時発見された運用前の新兵器、アメリカ軍から手に入れたと思しきハードウェアシステムを模したであろうベルト・・『Arts』を狙ってきたのである。

 ハードウェアシステムを逆輸入して作り上げたあのベルトは10年かけても解析することができなかった。
 ハードウェアシステムを手がけた御門教授ならそれもできたかもしれないが、彼はCADUCEUS掃討後、危険視する者たちによって暗殺されてしまったのである。
 
 現在のハードウェアシステムは御門教授が開発したものをベースに、部分的に解析できているArtsの技術を使って構成されている。
 
 戦時中のものより性能は上がっているが、実際のところ技術的に背伸びした面が大きく、その理論や仕組みがわからないまま使われている部分も少なくない。
 例えば装甲を物質化する技術は起動することで特定の物質が構成できることはわかっているが、他の物質を構成する方法は全くわかっていないし、なぜ構成できるのかは不明だ。
 思い通りの害骨格を形成するためのプログラムツールは何とか作り上げたが、それもなぜそうなるのかわからない関数を組み合わせてブロックのように組み上げており、実質利用はできても把握はできていないのが現状だった。

 Artsを起動させる実験も何度も試みられた。
しかし、香川が経験したような拒絶反応が出てしまうだけだった。

 そのArtsをあの未成熟なアウォークは起動させた。そして最高機密たるそれは持ち去られたままなのである。
 蜘蛛に似たアウォークの手には渡らなかったが、別派のCADUCEUSの生き残りがあって主権を取り合って奪い合っているとなると事態は深刻化してくる。
 たとえ一度も攻撃してこなかったとしてもあいつがアウォークである以上敵である可能性は無いとはいえないのだ。
 
 しかし、なぜ彼はあのようなことを口にした。

 香川は確かに聞いた。あのふざけた物言いを。

 「仮面ライダーだと・・?」

 その名はたとえその手に疎い香川でも知っていた。
 その名は子供たちが見る特撮番組の主人公の名前だ。
シリーズが長く続いていて大人にもマニアはいるが所詮子供たちのヒーローの話だ。
 
 自分の正体を隠すのはいい、だが言うに事欠いてあれは無いだろう。
 動けなかった自分を見下して吐いた言葉なのか。
 自分が倒せなかった相手を倒して見せて正義の味方を気取ったのか。

 香川には実に屈辱的な言葉だった。

 実在しないヒーローを気取ってみせるあのアウォークが苛立たしかった。

 システムのデータをサーバにアップロード完了させた頃、テレビで流していたニュース番組にまたも通り魔の事件があがっていた。

 「同族に意味もなく襲い掛かるとは人間様はのんきな物だな。」
 香川は毒づいた。アウォークが現れてから三日経つ、あれが最後の一体でないことは明白である。
 誰かしらの指令を受けて動いていたのだから。

 もう一度ハードウェアシステムで構成された部隊を組織する必要があるのかもしれない。
 そして仮面ライダーを名乗るふざけた奴からもArtsを取り戻さねばなるまい。


2010-05-12 04:33  nice!(7)  コメント(4)  トラックバック(0) 
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コメント 4

じぃじぃ

おはようございます、応援になります。
(^▽^)/
このジャンル大好きです。♪♪

by じぃじぃ (2010-05-12 09:06) 

xephon

じぃじぃさんnice!に加え応援までありがとうございます。

見切り発信ではじめたくせに、やっぱり自分の文なぞ見てもらえないものかと肩を落としていたところにこの声援。

本当にありがとうございます。もう少しがんばって続けます!
by xephon (2010-05-12 14:46) 

takehiko

なんというリアリティ・・・。
なんという説得力・・。

かつて日本はアフリカに実力部隊を派遣して、
実際に武力行使したことがあったっけ・・・?
そんなことあるわけないのに、
あったような気がしてくる・・この怖さ・・。

色んな伏線が魔法のように散りばめられて、
そこにはふたたび行きつく事が出来た時の快感。

率直に面白い。
面白すぎる。
これはいかん。

次なるシーンをまた渇望する。

by takehiko (2010-05-13 22:49) 

xephon

takehikoさんコメントありがとうございます。

なんかあまりほめてばかり頂くとヤラセみたいにおもわれそうw

ここはもう少し書きようがあったんじゃないかー?

これは矛盾じゃないかー?ってとこもどんどんつっこんでやってくだされーw
by xephon (2010-05-16 02:38) 

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