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Scene”Venom” [仮面ライダー]

 夕闇の中浮かび上がる異様な姿に向かい、香川は再び挑みかかった。
 振りかざした剣が一瞬街明かりを反射し、禍々しい相手に振り下ろされたが、それは二振りの剣によってあっさりと阻まれ、逆に他の二振りによって胴を両側から斬りつけられた。

 細身の剣で斬りつけられたくらいではハードウェアシステムの装甲はびくともしない。敵も

それを知っているのか全力で振るったわけではなさそうだった。

 その代わり蠍は構えを変えた。弓を構えるような風にも見え、あたかもフェンシングのそれ

のようにも見えた。
 それは明らかに突きを意識するものだった。
 先の戦争でハードウェアシステムによって苦しめられた彼らがその装甲の弱い部分を効果的

に狙うべきと結論付けた結果なのかもしれない。

 「新型さんがどれほど耐えられるか試してみましょうかね。」

 矢継ぎ早に繰り出される連撃を香川は必死に弾いた。しかし、八本の腕から繰り出されるフ

ェイントも交えた攻撃すべてを見切ることなどできるわけもなく関節部分に何度も攻撃を受け

てしまう。
 
 このままではまずいと考えた香川は後方に飛び退って腰の後ろに手を回した。

 「Variable Shooter Unlock」

 構えた銃が火を噴く。

 その銃火の向こうに白銀と漆黒の姿が攻防を繰り返していた。

 由佳里の下にたどり着き、彼女を連れ去ろうとしたArtsに蝙蝠の鋭い蹴りが見舞われたのだった。

 Artsは左腕でそれを受け、そのまま腕を絡めると自分の肩を支点に折りにかかる、それに気づいた蝙蝠はすかさず体を回し相手の頭に蹴りを見舞う。

 絡めていた腕を放し蹴りをかいくぐるとArtsは相手が蹴り終わった足を着地させる地点に向けて蹴りを放った。しかし蝙蝠は足を付かず、さらに回転してArtsの背にかかとを落とした。
 
 屋上の床にげしんとたたきつけられたArtsだったが一秒たりとも寝ている気はなかったらしい。

 蝙蝠の足を背に乗せたまま跳ね起きたArtsはバランスを崩した相手の浮き上がった足をさらに蹴り上げ残った軸足を払った。

 今度は蝙蝠が転倒する。しかしArtsはそれでは終わらない。飛び上がらずに小さく宙返りすると相手の上に片膝で追い討ちをかける。
 まさに寸前で転がりよけた蝙蝠はヘッドスプリングで跳ね起き、着地と同時に上段下段と回し蹴りの二連撃を繰り出す。
 
 Artsは上体をそらした後すぐその場でトンボを切ってかわすと着地する前に蝙蝠を両足で蹴り飛ばした。

 蝙蝠が五歩六歩よろけた隙にArtsは由佳里を肩に担いだ。

 「きゃあ!きゃあ!放して!蝙蝠さん!」

 少女がいくら暴れようがArtsはびくともしない。
 今まさに別のビルに飛び移ろうとするところを蝙蝠が抑えた。

 「その子を放せ!」

 振るわれた蝙蝠のパンチは見事に相手の顔面を捕らえ、よろけたArtsから彼は由佳里を取り返した。

 「逃げるんだ。」

 そしてArtsの前に壁として立ちはだかった。
 
 Artsが物陰に逃げ込む由佳里と蝙蝠を見比べた時、背後に連撃が襲った。

 振り返ると蠍の次の刃が待っていた。
 右手でそれを弾くと敵の肩についている鋏が喉を狙ってきた。
 踏み込み気味に敵を蹴り飛ばすとまたも背後から攻撃を受ける。
 蝙蝠の拳だ。

 続いて飛んできた蝙蝠の蹴りをかいくぐり、蠍の剣を二振り足の先で弾くとArtsは横に走った。
 蠍も蝙蝠も彼について逃がさない。

 蝙蝠の足払いを跳んでかわすと頭上には蠍の剣があった。
 ぎりぎり蹴り飛ばして避けるが第二第三の剣が追ってくる。それらを腕で受け止め何とか着地すると今度は尻尾の毒針が襲ってきた。
 とっさに相手の腕を掴んでその剣で防ぐが、蝙蝠が後頭部を蹴ってきた。間に合いそうにないので避けることをせず、そのまま掴んでいた蠍の腕の剣で相手の足を払う。

 刃で斬られるのを嫌がったのか、蝙蝠は無理やり大げさに飛びのいて避けた。

 蠍は残る腕でArtsを刺してきた。
 Artsがくるりと蠍の体側に回るとそちらに注意が向いたのを幸いと蝙蝠が拳を見舞った。蠍にである。
 蠍は一度体をくの字に曲げたがすぐにそちらに剣を振るった。
 蝙蝠は一撃二撃とそれを払い、剣を振るいにくい懐に入ろうとしたが二つの鋏と、そして背後から襲おうとする毒針がそれを阻む。
 
 Artsは蠍の背後から攻撃をしようとしたが、蠍にはもっとも恐るべき武器である尾と、さらに背中に二本の腕があった。
  
 尾のなぎ払いをかわすとその勢いのままに蠍は後ろ回し蹴りを放ってくる。
 Artsがそれをかいくぐるとその蹴りはそのまま蝙蝠に向いた。
 蝙蝠がそれを腕で跳ね上げ突きを繰り出すが、それを叩き潰すように肩の鋏が繰り出される。

 蝙蝠の腕が切り裂かれようという丁度その刹那、Artsが放った蠍とは逆回転の飛び回し蹴りが決まり、蠍は横に跳ね飛ぶ。
 
 蠍の影から現れたArtsに向かって蝙蝠は躊躇なく上段回し蹴りを放った。
 飛びまわし蹴りを終えたばかりのArtsは避けられず、これを受けて回転しながら地に伏せる。その視線の先に装甲を腐食された香川が倒れているのが見えた。きっとあの尾から噴射される毒を受けたのだろう。

 通常、蠍の毒は金属を腐食させる力はない、だが兵器を相手に戦闘することを想定されたアウォークの尾にはそういった成分調整がなされているのだろう。

 大方腐食で装甲が弱ったところをめった斬りにされたに違いない。

 蝙蝠が追撃とばかりに踏みつけてきたがそれがArtsに届く前に蠍が蝙蝠を蹴り飛ばした。
 よろける蝙蝠に蠍はさらに追撃をかける。
 剣を構えた全ての腕を広げ、上体を回転のこぎりのように縦回転させて追いすがった。
 
 受けようが無いと判断した蝙蝠は飛び退ったが、蠍はさらにバレリーナかフィギュアスケータのようにスピンしながら追いかける。

 あちこちに設置してある排気ダクトが砕け、火花が散った。
 竜巻のような蠍の攻撃を蝙蝠は身を低くしてかいくぐり、駒の軸たる足を払う。
 それを予期していたのか蠍は軽く跳ねると移動しにくい状態の蝙蝠に上から襲い掛かった。

 蝙蝠は素早く転がり初撃をかわすと剣のあたった場所に火花が散った。
 追撃に来る次の剣を足先で蹴り飛ばしてその勢いのまま立ち上がると三撃目を用意した手を踏みつける。
 ところが蠍が見舞いたかったのは尾の毒針だった。
 その必殺の一撃を両手で押さえたものの、蝙蝠は地に倒され、目の前には針が迫っていた。

 絶体絶命のその瞬間、蠍は背中から蹴り飛ばされた。
 Artsはよろけた蠍にさらに拳をたたきつける。
 蠍の背部の甲殻がめくれ体液が飛び散った。

 「Arts!」
 
 苛立たしげに蠍が剣を振るいながら振り返るとArtsは背中に銃撃を立て続けに受けてよろけていた。
 容赦なく斬り付けて蹴り飛ばすとArtsが受けていた銃弾がそのまま蠍に打ち込まれてきた。
 「まだ動けたのか。」
 身を起こした香川を見て蠍は舌打ちした。
 剣でいくらか銃弾を弾きながら蠍は香川に向かった。

 蝙蝠はその隙に起き上がるとArtsに飛び掛る。
 初撃のパンチを相手に受け止めさせるとその勢いのまま体を反転させて相手の側頭部に裏拳を試みる。
 すぐに気づいたArtsはわざと体を倒し、空中で側転するように足でその腕を払った。
 
 「待て!」
 
 Artsが片手を突き出す。
 そこに香川が飛ばされてきた。

 香川は起き上がるとArtsに向かって激しく発砲した。
 思わず身を引くArtsに香川は渾身のパンチを見舞う。
 二人は勢いのままに数メートル転がっていった。

 それを見ていた蝙蝠にも攻撃はやってきた。
 蠍の剣撃、鼻先をかすめた刃に気づき、あわてて身を縮めるとすぐ頭上を別の剣が通り過ぎた。
 それがフェイントだったといわんばかりに別の剣が丁度蝙蝠の首がある辺りに向けてすでに振るわれている。

 回避が間に合わない!
 そう判断した蝙蝠は逆に頭を突き出し蠍のみぞおちに頭突きを決めた。
 後ずさる蠍。
 鼻先を刃がかすめていったが難は逃れたようだ。

 「思っていたよりできるんですね。」
 
 蠍がつぶやいた。

 「でもそろそろ終わりにしましょうか。」

 蠍の向こうでは香川とArtsが戦っていた。

 「仮面ライダー!Artsをかえせ!」

 香川の銃撃を左右に転回しながら回避するArtsはそれには答えなかった。

 「無傷のまま回収したいんだ。渡せば今回は見逃す。」

 貯水タンクの裏を通り過ぎたArtsはその手に剣を携えていた。

 香川はArtsを追って引き金を引くがArtsはそれを剣で弾いていた。

 「そうかい。」

 香川はカートリッジを取り出すとベルトのソケットにはめ込んだ。

 「P Jet Charge」
 
 撃ちながら近づいてゆく。

 Artsは同じ距離を保ちたいのか後ずさった。

 香川はかまわず追ってゆく。
 するとArtsは意を決したのかその場にとどまった。

 「Pジェット!」
 「Action」




 伸びるプラズマジェットの輝きを背に蠍は蝙蝠を追い詰めていった。

 四対の腕の全てに握られた剣と肩から伸びる鋏、その全ての攻撃をかわすのは至難の業であった。

 遠い間合いでは全ての剣の効果的なレンジになる。かといって近づいてしまうと今度は二つの鋏と恐るべき尻尾の一撃が待っている。

 蠍の攻撃は以前と比べると各段に鋭くなっていて、さすがの蝙蝠ももう何度もかわす自信が持てず、近寄れないのが現状だった。どうやら終わりにしようと言ったのははったりではなさそうだ。
 
 二方向からの剣をかがんでかわし、その剣を蹴り飛ばして次に来る攻撃を止める。
 残った腕で振るわれた剣を紙一重で何とか避けたが次の攻撃を避ける余裕がない。
 たまたま目にはいった敵の足を掴み、死に物狂いでひっくり返す。

 バランスを崩した蠍は攻撃に失敗したが尾で支えたため倒れることはなかった。それどころか鋏の間合いに敵がいる。

 鋏が蝙蝠の首を捕らえた。
 うめき声を上げる蝙蝠を蠍はしげしげと見つめる。

 「よくがんばりましたよ。これだけの剣を避けたのだからたいしたものです。」
 蠍の肩越しに尻尾が見えた。

 だが次の瞬間鋏の力が緩む。
 蠍の背で体液が飛び散った。
 だが蠍は目の前の獲物から眼をそらしはしなかった。

 再び捕らえようと鋏を伸ばす。
 だが蝙蝠は大きく距離をとった。
 そこから何が起こったのか把握できた。

 
 香川は自分の意思とは関係なく蠍を撃っていた。
 撃ったのはArtsにだった。
 
 Pジェットを放ったその刹那、Artsはその色を空色に変えた。
 香川が腕を振り下ろすよりも早くその場を避け、香川の背後に回ったのだ。
 香川は輝く刃でなぎ払ったがArtsはその香川の背を追うように動いていた。

 プラズマジェットの効果がなくなると香川は再び銃を放ったのだが腕の向きを蠍に向けられてしまったのである。

 Artsはさらに自分が持っていた剣を投げつけた。
 ところがそれは蠍には刺さらず蝙蝠の足元に転がった。

 蝙蝠はその意図が理解できたがそれを蹴り返し、再び蠍に向かった。

 「仮面ライダー!」
 香川は自分の腕をとっている相手を掴むと強引に地面に投げつけた。
 手は離さずそのまま押さえ込む。
 Artsは跳ね返すことができず逆関節を決められた。

 「Optimization」
 Artsの色が赤くわかってゆく。

 「させるか!ハードテクスチャ!」 
 「Mapping」

 だが先に完了したのはArtsだった。
 強引に香川を跳ね飛ばし、立ち上がる。

 そして蠍に向かおうとした。
 だが香川がその足を掴んで持ち上げる。
 逆さづりになったArtsはそのままの状態で香川の足を殴りつけた。

 ハードテクスチャモードの防御力は並大抵のものではない、だがしかし香川は装甲を通して強い衝撃を感じた。

 Artsを一度勢いをつけて上に振り上げるとそのまま床にたたきつける。
 コンクリートの床は簡単に砕け、その中にArtsは埋まった。
 だが香川はまだその足を離さず、もう一度振り上げた。

 自分の身を一度救ったArtsが窮地に陥っていようと蝙蝠にはそんな様子は目に入っていなかった。

 蠍の猛攻は熾烈を極め、とてもではないが攻撃に転じることなどできない。
 次々振るわれる剣先をかいくぐったり弾くのが精一杯だ。
 
 蝙蝠は武器を持っていなかった。
 だから直接剣を受け止めたり押し返すことはできなかった。
 じりじり押され、後退を余儀なくされる。
 肉を切らせて骨を絶つ、それこそが今できうる最後の攻撃手段であるのだが、それすらかないそうにない。
 かすり傷さえ負う訳には行かない。そうなのだ。負ってはいけないのだ。

 次第に追い詰められ、とうとうへり近くまで来てしまった。

 こうなったら飛び降りるよりないだろうか。
 それには背を向けなくてはならない、それはつまり死を意味するだろう。
 もし蠍がすべての腕と尻尾を使って同時に他方向から攻めてきたとすれば蝙蝠は無傷でいられる自身はなかった。

 これで終わりだとばかりにすべての剣が振り上げられた時、ノーマークだった者が駆け込んだ。
 
 「えーいっ!」
 
 蠍の頭を強烈な勢いの白煙が覆った。
 たちまち視界を奪われた蠍は闇雲に剣を振るったが、蝙蝠はその隙を逃す気はなかった。
 
 響く気合とともにひねりを利かせた渾身の突きが敵の正中を捉える。
 手ごたえはあった。
 間髪いれず敵の頭のあると思しき辺り、延髄に向けて受身も考えずに蹴りを放った。
 
 白煙の中から蠍は声もなく跳ね飛び、そのまま地表に落ちていった。

 香川もArtsもその黄色い声を聞いていた。
 Artsは驚いて動きを止めた香川から力ずくで自由になりそちらに駆けて行った。

 蝙蝠のそばに消火器を構えた少女がいた。
 しかしそれも一瞬で、持っていたものを取り落とすと少女はまさにその場に力なくかがみ込ん

だ。

 「うう・・・」

 かばうように左腕に添えられた右手のそばに小さな傷ができていて、そこが黒く変色を始め

ていた。

 蝙蝠は見るなり彼女の傷にかぶりついた。

 Artsが蝙蝠の頭を乱暴に握る。だがすぐに放した。

 香川がようやくやってくると、蝙蝠は何度も彼女にかぶりついたり吐いたりしてい

た。

 「お前、血も吸うのか!」
 「毒だ、あいつは刺客だ、剣に毒を塗ってある。」

 由佳里はいまやぐったりと倒れ、真っ赤な顔をしていた。

 「蝙蝠さん・・ありがと・・」

 「君のおかげで助かった。」
 
 消火器の白煙の中で振るわれた蠍の剣が由佳里の腕をかすめたのだろう。
 大方毒は吸い出せたとは思えても、もともと充分に人を殺せる強さを持ったものである。
 
 「休戦だ、まずこの少女の安全を。」
 蝙蝠が言うと香川は頷いた。
 由佳里が持っていたハンカチを利用して腕を縛ると香川は無線で救急車を要請する。

 元のオパールのような色に戻ったArtsは蝙蝠を一度殴り飛ばすと由佳里を抱きかかえた。

 「どこへ連れて行くつもりだ!」
 蝙蝠が怒鳴るがArtsは下だと言った。
 
 一度ビルのヘリまで行ったArtsだったが、そこから飛び降りる衝撃を気にしたのか屋上で入り口に引き返し、エレベータの前まで行った。

 「まて!」
 蝙蝠も続く。

 香川は蠍が落ちていったほうを上から覗いた。
 急所に渾身の一撃を二度も受け、昏倒必死の状態でこの高さから受身も取らずに落ちたのなら、さしものアウォークとてただでは済むまい。

 しかしそこからある筈の死体が見当たらないのが気にかかった。


2010-05-21 05:25  nice!(7)  コメント(2)  トラックバック(0) 
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コメント 2

takehiko

はぁぁぁぁぁぁああああ・・・。

読むだけで力がはいってしまいましたー。
一番強かったのは由香里さんと言う事に一票。

蠍もArtsも蝙蝠も香川も、みんな違う理由で戦っているのでしょうが
蠍以外はちゃんと同じ理由で戦いを止める事ができるのですねぇ。
これは、これはっ!
もしかして新しい展開をのぞめるのではないだろうかっ!?

でもお互い譲れないものがあって戦っているのだろうから
うう~~ん・・・。

お話の先が未知数な分、期待も、期待を裏切る展開も
おおいに楽しみにお待ちしております^^
by takehiko (2010-05-21 06:56) 

xephon

takehikoさんこんばんは。

期待ってどうやってうらぎるの~ってなかんじですけどw

素人の書き物です、過度な期待はしないように。
by xephon (2010-06-04 03:19) 

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