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Scene”Boyhood” [仮面ライダー]

 少年は乱暴者だった。
 
 同じ世代の子供達よりも体は大きかったし運動は得意だった。
 母子家庭だったことが理由だったのか、いろいろありもしないことを言われ、いじめの対象になりかけることがよくあったが、彼はそうはならなかった。 自分を育てるために母親が苦労している事は知っていたし、母親が自分がいじめられているのではないかと心配する事が嫌だったから、いじめられかけると首謀者と思しき相手に自ら喧嘩を売ったりした。

 少年が暮らしていた地域では母子家庭の印象はあまり良いものではなく、地域の人たちの向ける目もあまり温かいものではなかった。

 言われなき噂を立てられたり、裏で蔑まれていることは子供ながらにわかっていた。
 だからこそなめられるわけには行かないと思っていた。

 そんな風に世間から疎まれていると感じていたものだからある日、万引きの容疑をかけられた時、店員に食って掛からずにはいられなかった。

 「警察に突き出してやる!」
 「俺は何もやってねぇ!」

 店員の剣幕に負けないくらいいきりたって少年は怒鳴った。
 小学生が大人に向かってとんでもない形相を向けていることがさらに店員の怒りをあおる。

 「ならそれはなんだっていうんだ!」

 店員の突き出した指の先に少年のポケットがあった。そしてそこから小さな駄菓子の袋がはみ出していた。

 「そういうのをな!動かぬ証拠って言うんだ!クソガキ!」

 少年は一瞬それを見た後気圧されるものかと声を張り上げた。

 「ばっかでぇ!これは他の店で買ったんだよ!」
 「そんな見え透いた嘘が通るわけねぇだろ!」
 「嘘じゃねぇ!お前なんかの店で買ったりするか!!」

 店の外でこのやり取りが行われていたのだから野次馬が集まり始めていた。
 そして、一般的ものの見方から、少年の事を悪く囁きあったりする声が聞こえ始めていた。

 「こっちは見てんだよ!」

 店員は見下すような視線で少年に言い放った。

 「おまえ、ポケットにねじ込んでいたじゃないか。」
 「そんな事してねぇ!」
 「いいやしていた。カメラにも録画されているだろうな。」

 ギャラリー達もさらに増え、中には警察に突き出しちまえという中年男や、どういう教育を受けているのかしらと聞こえるように言う主婦まで出てきた。

 少年が彼らを睨みつけると奇妙な一体感を持った一団はさらに色々と囁きあった。

 大衆を味方につけた店員はいかにも自分が正義だと言わんばかりに少年を睨みつけ。事務所に来いと怒鳴った。
 
 そうだそうだとか、悪ガキめといった声も聞こえてくる。

 少年の鼻の頭がつんと痛くなり頬が高潮していたが涙だけは見せたくなかった。
 そんな時に現れたのである。

 「その子はとっていないと思いますよ。」

 痩せ型で、なんとも頼りなさそうな青年だった。

 いかにも貧乏大学生と言った風な彼は振り返った店員に向かってもう一度小さな声で言った。

 「僕はとっていないと思いますけどね・・。」

 絶対自分が正義であり、世間も味方につけていると勢いづいていた店員は青年をもにらみつけた。

 「証拠はあるんだ!そいつがポケットに入れるのも見たし、現にはいっているじゃないか!」
 「これは違うって言っただろ!小遣いがいくらあるか確かめてまたしまっただけだ!これは他で買ったんだ!」

 店員は少年に掴みかかった。

 「へたな理屈は警察で聞いてもらいな!」

 少年はその手を払いのけてふざけるなと怒鳴った。
 そこへ、誰かが連絡したのか本当に警察が来た。

 「万引きしたっていうのはお前か。」

 店員が少年を指差しながらそうですそうですとわめいた。

 「こいつがウチの店から菓子をとったんです!」
 「とってねぇ!!」

 少年の声はかすれかけていた。子供がなく寸前の声である。

 「まぁ待って下さい。店員さんも、お巡りさんも。」

 青年が少年を背に隠して両手を落ち着けとでも言いたげに下に振る。

 「さっきからあんた、何のつもりだ。こいつの知り合いか。」

 店員が不機嫌に腕を組むと青年は知り合いじゃないんですけどとこめかみを掻きながら言い、そしてまぁ聞いてくださいなと続けた。
 
 「まず第一に、この子は万引きをしていないと僕は思います。そしてしていないとしたら、これは冤罪になりますねぇ。」
 「なにを言っているんだ。俺は見たんだ!」

 ええと青年は笑った。

 「ええそうでしたね。でもこの子の言う通りかもしれないし、見間違いもあります。なら確かめるべきじゃありませんか?これは人権に関る大切なことです。それに、店の信用が上がりますよ。」

 すると警官が口を開いた。

 「なにをするというのかね?」

 青年は店員に向いたまま言った。

 「なぁにいつもお店でやっていることですよ。つまり、売った数と在庫、そして入荷した数を確かめたらいいんです。簡単でしょ?」

  所が店員は一蹴した。

 「そんな必要あるか!やったのはわかっているんだ!」
 「違いますよ!」

 今度は青年が大きな声を上げた。だがすぐもとのトーンでは続ける。

 「わからないから、確かめるんですよ。それにね?本当に万引きがあったとして、それは店にとって駄菓子一個分の損失でしかないかも知れませんけれど、もし本当でなかった場合、この少年の人生に理不尽な汚点をつけることになるのです。そうならない為に確かめましょうよ。大人には責任というものがあるとは思いませんか?」

 店員は青年の物言いが気に入らず、そんなの知るかと言ったが青年は引き下がらなかった。

 「店員さんがあくまで正しいというのならそれは行われるべきだと思いますし、自分が正しいと主張する少年の益にもなります。その上でもしこの子が正しかったら、ここでこの騒ぎを見聞きした方々全員の誤解を解かなくてはいけませんよ。そして、それが結果的にこの店の信用に繋がります。」

 しかし店員は断固拒否した。
 実際問題万引きでなかった場合、店の信用が上がるどころかおちることは間違いないのだから。ならばこの少年を悪者にしておく方が得策だからだ。

 すると青年は、ならばあなたが濡れ衣を着せていると言われても仕方ないことになると言い出した。

 「どちらも正しいと主張していて、そしてその証拠を調べることができるのにあなたはそれをしようとしない。これは一体どういうことだろう。何か不利になる材料でもあるのですか?」

 ギャラリーがざわめき始め、雲行きが怪しくなった。
 警官も青年の言葉に納得したのか少年を連行し、事情を聴取する考えを改めた。

 「たしかに、学生さんの言うとおりにした方が早く済むかもしれないな。」

 店員はしぶしぶ少年と青年、そして警官を事務所に招きいれ、そして在庫と売り数を調べた。
 
 結果は白だった。

 店員は少年を帰そうとしたが青年はそこで終わらなかった。

 「帰っていいはないでしょう?あなたは間違いを犯したのです。この子に頭を下げなくては。もちろん人としての正しい姿を大人として子供に示さなくてはいけませんよ?」

 店員は鬼の形相で青年を睨んだが、青年がもっともな理屈を並べることと、警官がいた手前なのか少年にしっかりと頭を下げて謝罪した。

 少年はそんなことで許すかといいかけたがそれよりも早く青年が、誠意のある謝罪に対してはそれを受け入れるべきだよと諭した。
 少年は収まらない面もあったが、自分を守ってくれた青年の手前許してやらあと答えた。
 青年はさらに、今回のことを根に持ってあちこちにお店の良くない評判を広めたりしないように言った。
 もちろん少年はそんなことをするつもりはなかったが、今日あったことは約束できないといった。
 青年はそれはもちろん事実だから仕方がないけど、因縁をつけたようには言わないでほしいと、間違えられたとして欲しいと頭を下げた。

 少年は青年が頭を下げたことが気に入らなかったが首を縦に振った。

 警官は示談が成立したとしてそこを去り、青年は万引きにあったと言う駄菓子を買って店を後にした。



 それがあってから、少年はこの青年のことをとても気に入り、慕うようになった。
 彼の下宿が少年の家の近所にあったこともわかって毎日のように遊びに行くようになった。

 彼は大人しい性格で喘息持ちであったが体質改善をしたいと武術を学んでいた。

 少年は時折、なぜ自分を助けたのか聞いた。
 青年は最初はただの気まぐれだといったが、子供の癖にりんとして大人に屈しようとしないところに信じるに値するように思えたと笑った。
 もし万引きしていたらと聞くと、青年はとんでもないことになっていたなとさらに笑った。

 少年は青年が好きだった。
 自分がよく学校でいろいろ意地悪をされることを話したり、山で珍しい虫をとったことなどを話し、青年からは少年にはまだ理解できない難しい話や、大学の武術サークルでこてんぱんにされたことなどを聞いた。

 青年は少年がどんなくだらない話をしても興味深そうに聴き、そして時折いろいろ意見を言った。

 青年の考え方は少年には新鮮で、どの大人とも違うように思えた。
 特に、正しいことを主張する必要はないが、間違っていることは直して行くべきだという言葉が気に入った。
 それは、少年の同級生は何かと言うと少年に対し、自分が如何に正しいかを主張するくせに、間違っている部分を指摘されるとそこではないところの話を持ち出しことが多かったからだ。

 少年が青年の家に行くのにはもう一つ理由があった。
 彼は貧しい少年が買えなかった漫画を持っていた。

 そこにはヒーローがいた。
 理不尽な悪から正義を守る彼らは少年にとってとても輝く存在だった。
 日頃、自分の境遇が好ましいと思っていなかった少年にとって、不正を正す正義の味方は大人の理想像でとも言えた。

 正義の味方は敗れてはいけない。
 それは悪が自由になってしまうから。

 守らなくてはいけないものが脅かされるから。
 
 だから正義の味方は敗れない。

 敗れないはずだった・・・。



 それは青年と知り合ってから五年ほど経った夏のことだった。
 
 山の中を走るスカイラインは木々の葉も青々と鮮やかに輝き、そこに吹く風さえも色づいて見える。
 そんなさわやかさを車の窓を開けて顔に受けていた少年は蝉の生態について青年に語っていた。

 青年はあんなに小さいのに並みの動物よりでかい声を出すんだからそりゃあながくは生きられないだろうなと笑ったが、少年はそれは違う、蝉は最後の最後を思い切り楽しくやっているだけで、今まで地味な下積みがあったのだといった。

 程なくしてサービスエリアに立ち寄ると、二人は缶ジュースを楽しんだ。
 飲み終わった缶を、利き手ではないほうの手でどっちが離れたところから正確にくずかごに入れられるか競ったが、そのくずかごの傍で二人は目撃したのである。

 大学生かOLだろうか、若い娘が三人、あまり印象の良くない見るからに暴走族のようなかっこをした男達に取り囲まれていたのである。

 最初に食って掛かったのは少年だった。
 相手は六人もいたが、そんなことは問題ではなかった。
 明らかに嫌がっている娘達を半ば強引に車に乗せようとしているのが許せなかった。
 
 「お前ら!その人たちは嫌がっているじゃねぇか!無理強いしねぇで相手してくれる奴を他で探せ!」
 
 言い方が言い方だっただけに相手が明らかな敵意を向けて少年に向いた。

 「アン?!てめぇ今なんて言った。俺達に言ったのか?」

 少年はたちまち囲まれ、胸倉をつかまれたが少年はひるまなかった。
 
 思い切り額を相手にぶつけ、その隙に逃れるとひるんだ相手の顔を思い切り殴り飛ばした。
 たちまち他の五人に取り押さえられたが、そこにさりげなく娘達を逃がしがなら青年が割って入った。

 「僕の弟がすみません、まだ子供なんで勘弁してください。」

 少年は気に入らなかった。

 「子供とか大人とかかんけぇねぇ!女に逃げらちまったじゃねぇか!アァ?どう落とし前つけてくれるんじゃコラ!!」
 「喧嘩吹っかけてきて子供だからすみませんで済むと思ってんのかアア?!」

 不良達は青年の胸倉を掴み罵声を浴びせた。
 
 「いえ、僕は弟がいきなり暴力を振るった事をお詫びしたんですよ。」

 青年は睨むでもない、笑うでもない、まっすぐ相手を見つめて言った。

 「そしてお嬢さん方がが逃げたのは、そう思わせる面があなた方にあっただけで弟のせいではないと思いますけどどうでしょう。ああいう無理強いはともすれば犯罪になりますしね。」
 
 不良達はいきりたち、青年に襲いかかった。
 大振りの拳を上体をそらしてすいすいと二度やり過ごすと次の男の拳は左手で内側に巻き込み崩れた重心の相手に足をかけた。
 三人目と四人目が両側から来たが深くお辞儀をするかのように避け、起き上がりざまに振りぬかれていた一人の腕を絡めて倒れていた男の上にさらに転倒させた。
 それを見て驚いていたもう一人の手首を取り、くるりと回して地に転がせる。小手返しという奴だ。
 業を煮やした別の二人が車から鉄パイプを取り出し、それを振り回した。
 
 青年は危うげにそれらを回避し、じりじり下がっていった。
 それを見た少年は一人にタックルし、その手から凶器を奪い取り、自分が振りまわした。

 「このやろう!」

 所が青年は後ろからそれを取上げると崖の方に放り捨てた。

 そして少年が狙われることを嫌って自らリーダーと思しき一人に踏み込み、これを転がして組み伏せた。

 「親分さんですかね?この体勢だとあなたの肩を抜くことができます。かなり痛いですよ?子分さんたちを止めてくださいな。」
 
 男は仲間達に抵抗をやめるように怒鳴った。
 
 「多分もうサービスエリアの人はこの騒ぎに気付いていますね。まだ続けるとなればお巡りさんも来ますよ。どうです、お互い面倒事は嫌だと思います。ここはこれでおしまいにしましょう。」
 「いいだろう。」
 「ではこれから放しますけれど、また暴れたらほら、あそこで見ている店員さんが黙っていないと思いますよ。」
 
 青年が放してやると不良達は様々な罵声を吐きながら去っていった。

 少年がいろいろ言おうとすると青年がそれをたしなめた。

 「君まで彼らのまねをしなくていいんだよ。」

 だが少年はあまり納得できていなかった。

 「あんな迷惑な奴らこてんぱんにやっつけてしまえばよかったのに。」

 すると青年はくすくす笑った。

 「凶器を使ってしまったらそれは悪者だよ。」


 そして・・・。
 その日のうちに、青年は危篤状態になった。

 旅行を楽しんだ二人が帰路につき、例のサービスエリアの近くまで来た時、けたたましい騒音を立てながら沢山の車やバイクが取り囲んできたのだ。

 「なんだこいつら!まさか来るときのあいつらか?」

 少年が思わず窓を閉めると青年は相手にしないようにねとだけ言った。

 仲間を引き連れてきた暴走族は危険な運転を繰り返し、盛んに挑発するような行為を繰り返した。
 青年があくまでマイペースで車を走らせていると、彼らはエスカレートし、走りながら物をぶつけたり凶器を叩きつけたりした。
 
 少年は恐怖を感じた。
 だがそれを顔にも声にも出さなかった。

 このままでは運転に差し支えると判断した青年は車を止めた。

 「君は出てきてはいけないよ?鍵をかけて隠れておいで。」

 青年は車外に出るべきではなかったのだ。

 少年を残すと青年は彼等に対峙し、そしてたちまり取り囲まれた。

 青年に言われ車内に身を隠していた少年だったが、後部座席の窓からこっそり覗いていた。

 青年が男達に対峙すると、リーダーらしき男が雄たけびを上げて襲い掛かってきた。
 青年はそれらをすんなりいなすと話し合いはする気は無いってことですかと言った。

 「こっちもなめられたままで終われねえってことなんだよ!」
 
 一人にでも捕まれば青年は無事ではすまないだろう。
 少年が初めて厳しい表情の青年を見た。
 
 「へぇ。たった一人に大勢でつぶしにかかって、面子も何もないと思いますけどね。」
 
 大振りで乱暴な攻撃を青年は落ち着いて見事にさばいていた。

 周りをとりかこみ、野次を飛ばしていた不良たちだったが、一向に攻撃が決まらないことにいらだって来た様で、最初はタイマンと呼ばれる一騎打ちだったのだが、一人助っ人がつき、それが二人になり、次第にリンチのように数が増えていった。

 青年もそうなると地面に転がすなどと言う手加減はせず、突きや蹴りを繰り出した。

 青年が強敵と見ると不良達は鉄パイプや金属バット、鎖など凶器を持ち出した。
 次々繰り出されるそれを青年はうまくさばいて時には相手からそれを奪い取り、遠くへ投げ捨てた。

 少年は青年にヒーローを見ていた。
 これがヒーローの姿なのだと。

 しかし悲劇は突然起こった。
 青年の喘息の発作が起こったのだ。

 不良達は全く躊躇しなかった。
 聞いたこともないような鈍い音が何度も響いた。
 直視に耐えかねる光景を、少年は窓越しに不良たちの隙間から垣間見た。

 青年が全く動かなくなってもそれはしばらく続けられた。

 飛び出していった少年を一撃の下に地面に転がすと、不良達は高笑いしながら去っていった。

 すぐには動けなかったがよろよろ立ち上がると一番近くの民家に助けを求めた。
  
 泣きじゃくりながら救急車の中で少年は思った。

 なぜ正しいものが敗れる。
 なぜ理不尽な力の前に罪のないものが虐げられる。
 なぜ行われなくていいはずの悲劇がわざわざ引き起こされる。

 あってはならない。
 あってはならない。
 あってはならない。

 あんな奴らのさばらして良い訳がない。
 あんな輩に好き勝手させていいはずが無い。
 あんな不届きものを自由にさせておくのは悪だ。

 ヒーローは。
 ヒーローは何処にいる。
 ヒーローがいればこんなことにならなかった。
 
 正義を行うものが必要だ。
 正義を行わなくてはいけない。
 正義を行う者はいないのか。

 

 だったら・・・。



―――――――

 「俺が・・・」

 蝙蝠は定まらないし焦点で必死に敵を探した。

 体に力が入らない。
 そのくせ全身がいやというほど痛みを訴えてくる。
 これが蠍の毒なのだろう。

 筋肉が言うことを聞かないものだから呼吸までまともにできない。
 蝙蝠は意思とは関係なく嘔吐した。

 「俺が・・・」

 声さえまともにでない。

 意識も混濁してきていて一体今自分がどんな状況であるかもあやふやになってきている。
 
 蝙蝠は必死に今自分がなにをすべきだったのかを思い出そうとした。
 なぜ今倒れている?
 なぜこんなに苦しい状態なのか。
 
 おぼろげに何かが見えた。

 砕けたガラス製の容器だろうか・・・。
 床に液体がこぼれている。
 何か大事なものだったような。

 蠍。
 そうだ、自分はその毒の血清を取りに来た。

 勇敢で高潔な少女のために。
 
 自分を守ろうとした健気な者の為に。

 血清を取りにいかなくては・・・いや待て、それは手に入れた。
 自分の様子を見た教授は毒におかされてなどいないことを見抜いた。
 そして普段の言動と、テレビか何かで得た情報から自分がどんなことをしているのか察したのだろう。
 裏切り者とされる危険を冒してまで舞い戻った自分が必要とするのは大方、刺客として送られた蠍の攻撃に巻き込まれた民間人を助けるためだと見抜いた彼はわざわざ人間用の血清まで用意してくれた。

 持ち帰らなくては。

 蝙蝠はぎりりと歯を食いしばった。
 
 「俺が・・ヒーローだ。」


2011-05-03 13:55  nice!(3)  コメント(2)  トラックバック(0) 
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コメント 2

takehiko

こんにちは。
拝見させて頂きました。

これは・・本当に素晴らしい。
泣きました。
号泣しました。

少年の人間としての誇りと怒りと、
負けてはいけない正義が、踏みにじられる理不尽さ。
救急搬送された車の中で、少年と共に号泣しました。
正義は必ず具現化して欲しいです。
この青年の正義も、少年に受け継がれてこそ昇華して欲しいです。

情景描写、話しの構成、心の動き、内容全てにおいて
まさしく今まで拝見したものの中でも、最高クラスのものだと思います。

この物語を読む事の出来た幸運を思います。



続きをーーーーっ;;
by takehiko (2011-05-04 14:20) 

xephon

takehikoさんコメントありがとうございます。
褒めすぎです。
いつもと同じ感じだったと思うんですけどねぇ…。
by xephon (2011-05-04 16:28) 

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